農作業安全コラム

畜産現場での事故

H30年5月 皆川 啓子

 某テレビ番組で、農家さんを当日突如訪ねるというものがあり、(採卵用の)養鶏場に行った際に「(衛生面の問題で)急に来られても困る」と指摘を受けたことが繰返し放送されています。とても大切なことで一般の方に周知していただくきっかけになりますが、養鶏場に限らず、農作業現場では防疫の観点から敷地内への関係者以外の立入りはご遠慮願っている場合も多いのが実情です。特に、畜産の現場では、家畜が疫病にかかってしまう事故に非常に気を遣っています。

 実は畜産現場ではそれだけではなく、作業者の負傷といった事故も頻発しています。北海道農作業安全推進本部が毎年作成している農作業事故報告書によると、H19~28年度の負傷事故の約3割強は家畜との接触によるものであり、その内訳は牛によるものが約8割となっています。牛は身体が大きく、搾乳牛で約650kg前後あります。肉用和牛だと一般的に出荷時で750kg前後といわれています。牛を人間の腕力だけでコントロールすることはまず、無理です。同時に、牛は人なつこい一面もあれば臆病な一面もあり、思わぬ動きをすることがあるため、何も対策しなければ、人間側が怪我をするリスクは高いのです。当然、足を踏まれるだけでも骨折することがあります。

 事故事例としては、牛を移動させるために誘導中、壁や柵との間に挟まれたというものが報告されています。この対策としては、壁や柵と牛の間に入らないことが一番ですが、マンパスといって人間だけが通り抜けられる隙間を作っておくこともひとつの手段です。また、搾乳時の牛との接触による事故が多く報告されていますが、何かあったときにすぐに逃げられるよう足下がよく見えるように明るくすることや、頭の高さの部分にはパイプや梁を配置しない等の改善をすることで、つまずいて転んだり、頭をぶつけたりする負傷事故が減少するという報告もあります。一番手近な対策としては、安全靴を履くことで、足先を踏まれても防護することができます。このように、相手が動物であったとしても、何かしら対策を打つことはできるものです。

 疫病などによる家畜そのものの疾病事故対策ももちろん重要ですが、家畜を飼養している人の事故対策も同じように重要です。まずは、飼養している人が事故を起こさないような安全対策を充分に行いましょう。飼養している人が怪我をしてしまうと、家畜の飼養管理にも大きな影響が生じ、衛生面のみならず経営面にも影響が出てきます。根室農業改良普及センターの調査研究成果では、「労働環境が整備されている酪農家ほど、牛舎内労働時間が短く、個体乳量が高い」という報告もされています。安全安心な農産物と良い経営のために、安全安心な農作業現場作りもぜひ意識していただければと思います。

 

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