物質循環モデルによる有畜複合農業の環境負荷軽減効果の評価

 

[要約]畑作と酪農が混在する北海道十勝地域(河東郡・音更町)を対象にした農業生産を物質循環モデルによって評価すると、酪農経営の家畜ふん尿と畑作経営の麦稈の相互有効利用による有畜複合農業の形成が、環境負荷軽減に有効に機能する。

北海道農業試験場・総合研究部・総合研究第3チーム

[連絡先] 0155-62-9286

[部会名] 総合研究

[専門] 環境保全

[対象] 家畜類

[分類] 研究

 

[背景・ねらい]

北海道十勝地域では、畑作と酪農の規模拡大と専業化が進行し、酪農専業農家での家畜ふん尿処理が大きな環境問題となっている。そこで、農業生産の物質循環モデルによって、酪農専業及び畑作専業農家の単独及びその組み合わせ、酪農を主体とする地域での物質循環量(窒素)を推定し、麦稈と家畜ふん尿を畜産・畑作間で有効に活用した場合の有畜複合農業の環境負荷軽減効果を評価する。

[成果の内容・特徴]

1. 酪農家単独モデル(飼養頭数:成牛46頭+育成牛34頭、飼料作面積:永年牧草20ha+とうもろこし10ha)における物質循環量を耕地1ha当たりの窒素量でみると、「廃棄」は56kg、農地での「蓄積・溶脱」は190kgと環境負荷への大きさは歴然としている (図1)。なお、 「畜産廃棄物」からの各フローは、ふん尿処理として固液分離方式を想定し、各々に実態に則して文献値等により試算した。畑作農家単独モデル(耕地面積30ha、小麦10ha+てんさい7ha+豆類6ha+ばれいしょ7ha)の窒素フローは「廃棄」5kg、農地での「蓄積・溶脱」24kgと環境負荷は小さかった。

2. 酪農家1戸と畑作農家2戸が結びついた有畜複合農業モデルでは(図2)、堆肥の半量と小麦わら全量の交換により、敷料の全量が供給される。このモデルでは、酪農家単独モデルに比べ、耕地1ha当たりの家畜飼養密度の低下により「農地投入」が大幅に減り、「廃棄」と農地での「蓄積・溶脱」は1/3近くに低減する。

3. 十勝支庁・音更町の酪農主体地域(飼料作物214ha,畑作物106ha,乳牛成牛換算家畜頭数524頭)における窒素フローは (図3)図2に比べ「廃棄」と農地での「蓄積・溶脱」が大きく、とくに「廃棄」は約3倍となり、酪農家単独モデルと同水準となっている。

4. 酪農主体地域 (図3)の物質循環を改善するため、表1の<シミュレ−ションの前提>のb)〜d)に示した技術導入等を行った場合の窒素フローの改善効果を評価した (表1)。現状の水準に比べ「廃棄」は約1/4になり、農地での「蓄積・溶脱」も約4割減少し、環境保全的物質循環の実現が可能である。

[成果の活用面・留意点]

1. 物質循環モデルは、市販の表計算ソフトウエアを用いて作成している。試算単位として市町村別や特徴的な地域・経営類型別に作付面積や飼養頭数の変化に応じたシミュレーションが簡易にできる形で提供可能である。他地域でもその地域に適した数値を設定すれば適用できる。

 

[その他]

研究課題名:有畜複合農業における物質循環システムの構築

予算区分:実用化促進、経常

研究期間:平成9年度(平成5年〜9年)

研究担当者:秦隆夫、竹中洋一、中司啓二

 

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