宿主作物跡地から単離したアーバスキュラー菌根菌の接種による前作効果の確認


[要約]
アーバスキュラー菌根菌の宿主(ひまわり)跡地に比べ非宿主(シロガラシ)跡地では、後作とうもろこしの生育が劣る。ひまわり跡地から単離した菌根菌胞子をシロガラシ跡地へ接種すると、後作とうもろこしの生育が良くなったことから、前作効果には菌根菌密度が関与する。
北海道農業試験場・生産環境部・養分動態研究室
[連絡先]011-857-9243
[部会名]生産環境
[専門]肥料
[対象]
[分類]指導
[背景・ねらい]
アーバスキュラー菌根菌の非宿主作物跡地に比べて宿主作物跡地で、後作とうもろこしのリン吸収や生育・収量が優ることがある。この菌根菌宿主作物による前作効果は、後作とうもろこしの菌根菌感染率が宿主作物跡地で高くなるためと考えられている。しかし、宿主作物と非宿主作物の栽培跡地では、土壌の理化学性や生物性にも差があることから、前作効果の差異を菌根菌感染率の高低だけでは説明できない。そこで、前作効果の差異に菌根菌感染率の高低、すなわち菌密度の違いがどの程度関与しているかを明らかにするために、宿主作物跡地から単離した菌根菌を非宿主作物跡地へ接種して、後作物の生育や収量への影響を調べる。
[成果の内容・特徴]
  1. とうもろこし(品種名:パイオニア3790)の生育(播種50日目)は、菌根菌の宿主であるひまわり跡地(D)に比べて非宿主のシロガラシ跡地(A)で劣る。3kgのひまわり跡地土壌から単離した菌根菌胞子(1.7g)を3kgのシロガラシ跡地土壌に接種(B)することにより、シロガラシ跡地のとうもろこし生育が改善される(図1)。滅菌した胞子(C)を接種しても効果はない。
  2. とうもろこしの菌根菌感染率も、ひまわり後よりもシロガラシ後で劣る。ひまわり跡地から単離した胞子を接種することにより、この感染率の差も縮小する(図2)。
  3. とうもろこしのリン含有率はシロガラシ後よりもひまわり後で高く、シロガラシ後でも菌根菌を接種すると、ひまわり後とリン含有率に差がみられなくなる(図3a)。一方、とうもろこしの窒素含有率には大きな処理間差が認められない(図3b)。
  4. 宿主跡地から単離した胞子を非宿主跡地へ接種することにより、後作とうもろこしの生育、菌根菌感染率およびリン含有率の差が縮小したことから、前作効果は菌根菌の密度差で説明できる。
[成果の活用面・留意点]
  1. 菌根菌接種区(B)のとうもろこし生育がひまわり跡地(D)より劣る原因としては、単離過程での菌根菌胞子の活性低下のほか、感染源となり得る菌根菌の菌糸や感染根が胞子画分に含まれていないことなどが考えられる。
  2. 本試験は、有効態リン酸12.0mg/100gの下層台地黒ボク土(作土層)にポット当たり1gN相当のKNO3を加えた土壌で行なった。
  3. 本成績は、病害・線虫害等がない場合の結果である。前作物の選定にあたっては、後作物の病害・線虫害等を増やさない菌根菌の宿主を選ぶことが重要である。

平成12年度北海道農業試験会議における課題名および区分
課題名:輪作におけるアーバスキュラー菌根菌の動態と畑作物への前作効果(指導参考)
[その他]
研究課題名:寒地型作物の土壌肥沃度改善効果の検定と評価
予算区分 :大型別枠(新需要創出)
研究期間 :平成12年度(平成10〜12年)
研究担当者:唐澤敏彦、建部雅子、笠原賢明
発表論文等:Abstracts of 3rd International Congress on Symbiosis (2000)

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