陰イオン塩製剤給与による乳牛の低カルシウム血症の予防効果


[要約]
分娩前給与飼料のイオンバランスが高い農場で低カルシウム血症の発症が多い傾向がある。そのような場合、乾乳後期に陰イオン塩製剤(Cl:8.7%含有、DCAD:-2980mEq/乾物kg)を乾物中4.5%添加した混合飼料を給与することにより、低カルシウム血症発症の低減が期待できる。
[キーワード]
  乳牛、起立不能症、低カルシウム血症、イオンバランス、陰イオン塩
[担当]道畜試・畜産工学部・代謝生理科
[連絡先]電話01566- 4- 5321、電子メールmatsuiys@agri.pref.hokkaido.jp
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
近年、分娩時の低カルシウム血症に起因する起立不能症の発生が増加傾向にあり、その早急な対策が求められている。その要因の一つとして、分娩前飼料におけるナトリウム、カリウムの陽イオンと塩素、イオウの陰イオンとのバランス(DCAD)の関与が指摘されている。そこで、DCADと発症との関係について明らかにするとともに、陰イオン塩製剤給与による低カルシウム血症の予防効果について検討した。
[成果の内容・特徴]
 
1. 9農場における分娩前の給与粗飼料成分と3産目以降の起立不能症発症率について調査したところ、推定DCAD({[Na+]+[K+]}−{[Cl-]+[S2-]})が高い粗飼料、特に+250mEq/乾物kg以上の粗飼料を給与している農場で発症率が高い傾向にある(図1)。
2. 陰イオン塩製剤(Cl:8.7%含有、DCAD:-2980mEq/乾物kg)の添加量を決めるために、製剤を混合飼料に乾物中3%、6%添加(試験I)および4.5%添加(試験II)して乳牛に給与した。製剤の3%添加では効果が期待できず、6%添加では飼料摂取量が低下することから、いずれも添加量として適切ではない(表1)。製剤の4.5%添加では血液pHの低下(表2)および尿へのCa排泄増加(図2)から効果が期待され、飼料摂取量への影響もないこと(表2)から、4.5%が添加量として適切と考えられる。
3. 経産乳牛に対して分娩前2週間、陰イオン塩製剤を乾物中4.5%添加した混合飼料を給与することによって、低Ca血症(血清Ca濃度が7.5mg/dl以下)を示す頭数は低減し(表3)、陰イオン塩給与による低Ca血症の予防効果が期待できる。
4. 分娩前の経産乳牛をアルファルファ主体で飼養したところ、4頭中2頭が血清Ca濃度6.0mg/dl以下の重度の低Ca血症を発症し、うち1頭は起立不能を示したが、陰イオン塩製剤を乾物中4.5%添加することで、重度の低Ca血症の発症は抑えられる(表4)。
5. 十勝管内の大規模農場において、チモシー主体飼料で飼養している乾乳後期の経産乳牛に対して、陰イオン塩製剤を乾物中約4%添加したところ、起立不能症発症頭数は減少する傾向にあった(表5)。
[成果の活用面・留意点]
 
1. 陰イオン塩製剤の給与は、給与粗飼料のDCADが+200mEq/乾物kg以上の場合に行うのが望ましく、その期間は乾乳後期に限定する。
2. 陰イオン塩製剤は嗜好性が良くないので、混合飼料で給与するのが望ましい。
[具体的データ]
 
[その他]
研究課題名: 寒地寒冷地における高能力牛用自給飼料の高品質生産技術
5)飼料イオンバランス改善による乳牛の起立不能症予防
予算区分: 国補(地域基幹)
研究期間: 1998〜2002年度
研究担当者: 松井義貴


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