イネ穂ばらみ期耐冷性遺伝子座の特定と塩基配列情報に基づく高精度DNAマーカー
[要約]
「水稲中間母本農8号」の第4染色体長腕には2つの連鎖する穂ばらみ期耐冷性遺伝子Ctb1とCtb2が存在する。Ctb1が存在する領域は準同質遺伝子系統の耐冷性の比較から約56kbに絞り込まれ、Ctb1と密接に連鎖する高精度DNAマーカーが耐冷性の育種に利用できる。
[キーワード]
イネ、穂ばらみ期耐冷性、水稲中間母本農8号、DNAマーカー、Ctb1、Ctb2
[担当]北海道農研・地域基盤研究部・育種工学研究室
[連絡先]電話011-857-9478
[区分]北海道農業・基盤研究、作物・生物工学
[分類]科学・普及
[背景・ねらい]
「水稲中間母本農8号(中母農8)」はスマトラ島高地原産の熱帯ジャポニカ品種「Silewah」に由来し、冷害克服に有用な穂ばらみ期耐冷性遺伝子を持っている。「中母農8」の穂ばらみ期耐冷性を利用し、かつ、耐冷性遺伝子と共に導入されたと考えられる晩生等の不良形質を除去するためには、「中母農8」の穂ばらみ期耐冷性遺伝子の染色体上の位置を精密に特定し、耐冷性遺伝子を選抜するための高精度DNAマーカーを得ることが必要である。そこで、「中母農8」が第4染色体長腕に持つ耐冷性遺伝子座を特定し、耐冷性遺伝子近傍の高精度DNAマーカーを開発する。
[成果の活用面・留意点]
- 「中母農8」の第4染色体長腕には2つの耐冷性遺伝子Ctb1とCtb2が隣り合って存在する。Ctb1の両側にはDNAマーカーOSR15とSCAB11が、Ctb2の両側にはDNAマーカーSCAM20とRM317が存在し、各耐冷性遺伝子の育種選抜に利用できる。(図1A)。
- DNAマーカーによる選抜と戻し交配によって育成したCtb1を持つ系統(BT4-70-1)およびCtb2を持つ系統(BT4-76-2)は、Ctb1とCtb2の両方を持たない系統(BT4-74-8、BT4-9-7)に比べて人工的な冷害条件下での稔実率が15%以上高い(図1B)。
- Ctb1周辺のゲノムDNAに関する塩基配列情報を用いて作成した高精度DNAマーカーBAC1、BAC22、BAC9、PNK2、BAC29、BAC28を利用することにより、Ctb1周辺の「Silewah」に由来する耐冷性以外の遺伝子を極力除去することができる(図2)。
- DNAマーカーによる選抜と戻し交配によって育成した準同質遺伝子系統の耐冷性の比較からCtb1はBAC1とBAC22の間に存在する。両マーカー間のゲノムDNAの長さは約56kbである。
[成果の活用面と留意点]
- 本研究のDNAマーカーは「中母農8」および「Silewah」を用いた耐冷性の育種に活用できる。
- RM317はTemnykhら(Theor.Appl.Genet.100:697-712)により、また、OSR15はAkagiら(Theor.Appl.Genet.93:1071-1077)によって開発されたマーカーである。
- その他のマーカーを利用するために必要な情報は公開であり、問い合わせにより利用できる。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:中間母本農8号の穂ばらみ期耐冷性遺伝子の単離
課題ID:04-08-02-01-20-04
予算区分:ミュータントパネル
研究期間:2004年度
研究担当者:斎藤浩二、黒木慎、早野由里子、入来規雄
発表論文等:1)Saitoetal.(2004)Theor.Appl.Genet.109:515-522.
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