ウシES細胞の樹立とES細胞由来クローン産子の作出
[要約]
ウシ胚盤胞期胚の内部細胞塊(ICM)を単離培養することにより、未分化性および多分化能を保持した幹細胞(ES細胞)を樹立することができる。得られたES細胞は遺伝子導入が可能であり、また、ES細胞を用いた核移植によりクローン産子を作出できる。
[キーワード]
[担当]道立畜試・畜産工学部・遺伝子工学科、受精卵移植科
[連絡先]電話01566-4-5321
[区分]北海道農業・畜産草地
[分類]科学・参考
[背景・ねらい]
胚性幹細胞(ES細胞)は、個体発生や細胞分化の研究、遺伝子の機能解析、移植用臓器の作出、クローンおよび遺伝子導入動物の効率的作出等への利用が可能である。また、ES細胞由来の核移植胚の分子生物学的研究により、生後直死や過大子等、家畜の核移植技術における問題点の改善が期待できる。しかし、現在のところES細胞株が樹立されているのは、マウスなど一部の動物種に限られており、家畜のES細胞株の樹立が強く望まれている。本課題では、ウシの初期胚を培養してES細胞株を樹立し、得られた細胞の遺伝子発現や細胞分化の解析を行う。また、ES細胞を用いた核移植による胚および産子の作出を試みる。
[成果の活用面・留意点]
- ウシ胚盤胞期胚(15胚)の内部細胞塊(ICM)を単離培養した結果、4つ(27%)のICMにおいてフィーダー細胞への接着、伸展が観察され、15から20回の継代培養により株化された。得られた細胞株はアルカリフォスファターゼ活性を有し、SSEA-1、OCT-4およびSTAT-3遺伝子のいずれも発現していることが明らかとなった。
- ウシES細胞におけるリポフェクション法による遺伝子導入効率はウシ胎子繊維芽細胞(1%以下)よりも高い(5〜8%)傾向がみられた。また、緑色蛍光蛋白質(EGFP)発現ウシES細胞を用いてキメラ形成能を検討した結果(表1)、ウシES細胞では胚盤胞期胚の42%においてICMもしくは栄養膜細胞およびその両方においてEGFP発現細胞が観察された。
- ウシES細胞をドナー細胞に用いた核移植および産子の作出を行った(表2)。ドナー細胞とレシピエント卵子の融合率ならびに核移植胚の分割率は高い値を示したが、胚盤胞期までの発生率においては著しく低い値(3〜7%)となった。得られた胚盤胞期胚をレシピエント牛に移植した結果、いずれの区においても受胎(発情後42日目)が確認され、計3頭の産子を得た(表3)。
[成果の活用面・留意点]
- 本試験で樹立されたウシES細胞は、ES細胞における最も重要な特性である未分化性および多分化能は十分確認されているが、キメラ個体での生殖細胞への寄与は確認していない。
- ウシES細胞をドナー細胞に用いた場合、胚盤胞形成率が低かったことから、ES細胞に特化した核移植法の検討が必要である。
平成16年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「ウシES細胞の樹立とES細胞由来クローン産子の作出」(研究参考)
[具体的データ]
[その他]研究課題名:家畜(ウシ、ウマ)の胚性幹細胞(ES)細胞の樹立およびES細胞由来胚・産子の分子生物学的研究
予算区分:共同(民間等)
研究期間:2002〜2004年度
研究担当者:澤井 健、陰山聡一、尾上貞雄、森安 悟、平山博樹、南橋 昭、扇 勉、齋藤成夫、横山和尚(理化学研究所バイオリソースセンター)
発表論文等:1)SaitoSetal.(2003)Biochem.Biophs.Res.Commun.309:104-113.
目次へ戻る