低温馴化中に蓄積し紅色雪腐病菌に抗菌活性を持つコムギシスタチン
[要約]
低温馴化で蓄積するコムギマルチドメインシスタチンは、2つのシスタチン様ドメイン(ドメインI、ドメインII)よりなり、システインプロテアーゼ阻害活性と紅色雪腐病菌への抗菌活性を持つ。ドメインIIはプロテアーゼ阻害活性に依存しない抗菌活性を示す。
[キーワード]
[担当]]北海道農研・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
[連絡先]電話011-857-9382
[区分]北海道農業・基盤研究、作物・生物工学
[分類]科学・普及
[背景・ねらい]
シスタチンはシステインプロテアーゼ阻害タンパク質であるが、その生物機能には不明な点が多い。ムギ類など越冬性作物においては秋の低温遭遇により、耐凍性や耐病性等の越冬に必要な能力が飛躍的に増加する現象(低温馴化)が知られているが、耐病性獲得機構は分子レベルでは殆ど解析されていない。本研究ではコムギの低温馴化過程において発現するシスタチンが耐病性獲得に関与する分子機構を明らかにする。
[成果の内容・特徴]
- コムギマルチドメインシスタチン(TaMDC1)は2つのシスタチン様ドメインをもつ新しいタイプの単子葉植物由来シスタチンである(図1A)。
- TaMDC1 mRNA及びそのタンパク質は低温馴化初期に誘導される(図1B)。TaMDC1は低温馴化で誘導されることが示された初めてのシスタチンである.
- 大腸菌より精製した組換えTaMDC1は、他の植物シスタチンと同等なシステインプロテアーゼ阻害活性を持つ(図1C)。
- TaMDC1は50 μg/ml(2.17 μM)の濃度で紅色雪腐病菌(Microdochium nivale)の生育をほぼ完全に阻害する(図2)。
- ドメインI、ドメインIIはそれぞれ同様な抗菌活性を示す(図3A、 B)。
- ドメインIのみがプロテアーゼ阻害活性を持つ(図3C)。
- ドメインIIは新規な抗菌活性ドメインとして定義される。
[成果の活用面・留意点]
- 植物シスタチンを抗菌タンパク質として新しい視点でとらえることにより、シスタチンの機能研究や病害応答研究に新たな進展が期待できる。
- TaMDC1あるいはドメインIIは紅色雪腐病菌に対して有効な抗菌性ポリペプチドとして利用できる。ドメインIIを用いることでプロテアーゼ阻害活性を除去できる。
- TaMDC1、ドメインI、II各ポリペプチド及びそれらの遺伝子(特許出願中)は分与可能である。種々の真菌類に対する抗菌性試験、組換え植物体の作出等に利用できる
[具体的データ]
[その他]
低温シグナルにより活性化される新しい植物−病原菌相互作用系の分子基盤
予算区分:交付金プロ(形態・生理)
研究期間:2004-2005年度
研究担当者:今井亮三、Nikolai K. Christov、Petya K. Christova
発表論文等:Christova et. al. (2006) Planta (電子版)DOI: 10.1007/s00425-005-0169-9
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