育種集団から直接QTLの相互作用が検出できる新解析方法「Genotype Matrix Mapping」

[要約]

新規に開発したGenotype Matrix Mapping(GMM)法は、専用の解析集団を作成しなくても量的形質遺伝子座(QTL)およびQTL間の相互作用が検出できる。本法により、育種集団内の有用なQTLを網羅的に探索し、目的形質に対して効果的なQTLの集積を図れる。

[キーワード]

QTL検出、相互作用、解析法開発、育種集団、飼料作物育種

[担当] 北海道農研・寒地飼料作物育種研究チーム
[連絡先] 電話 011-857-9260,電子メールseikajouhou@ml.affrc.go.jp
[区分] 北海道農業・生物工学、畜産草地、作物
[分類] 研究・参考

[背景・ねらい]
従来のQTL解析は両親を固定した解析集団を用いており、一度に解析できるハプロタイプの数は2〜4種類となる。一方、育種過程では数千のハプロタイプを比較する場合もあるが、育種母材の中には解析集団とは異なるQTLが存在したり、QTLの相互作用が異なることが予想される。解析集団を利用したQTL解析の結果が育種母材に直接応用できないことは、育種現場における選抜マーカーの利用を阻害する大きな要因となっている。
 そこで専用の解析集団を作出せず、育種集団を利用してダイレクトにQTLの検出と相互作用の解析を行う新しい解析法「Genotype Matrix Mapping(GMM)」法の開発を試みる。
[成果の内容・特徴]
  1. GMM法とは、解析集団内の各マーカーのアレル数を行列数としたマトリクスを作成して、1つのマトリクス(マーカー)内での各セル(遺伝子型)に対応する形質値を単独マーカー効果とし、セル間のネットワークの比較で相互作用の有無を検出する新規の解析法である(図1)。効果の有無は、マーカーの組み合わせ毎にその有無による分散の大きさを考慮して、平均値の差をF値で評価することで判断する(表1)。
  2. GMM法の特徴は、既存の集団・系統群からQTLの解析が行える点であり、インターバルマッピング法に比べ、解析のための集団作成が不必要という利点と、アソシエーション解析に比べQTL間の相互作用を検出できるという利点がある(表1)。
  3. GMM法では、各マーカーにおける単独効果が無い場合においても、組み合わせた場合の効果を計算することから、従来法では検出できなかった、微細な効果のQTLが集積した場合の相互作用を検出することができる(図2表1)。
  4. 育種集団を用いてQTLの相互作用を検出することにより、選抜に有効なマーカー組み合わせが、集団の中にどの程度散在しているか検出することができる(図3)。
  5. GMM法では、形質評価を行う集団当代が有するQTLの組み合わせ効果を解析するため、異なる両親に由来するQTLの組み合わせ効果も検出できる(図4表1)。
[成果の活用面・留意点]
  1. マーカー選抜によるQTLの集積を図る際に、母材となるエリートラインに対して最も
    相互作用力が高く、形質に対して効果的なQTL/アレルを組み合わせることができる。
  2. 他殖性で遺伝的に固定した親系統に由来する解析集団の作成が不可能な植物種においても、QTL間の相互作用を検出することができる。
  3. 遺伝的に均一でなく、集団の構造化が生じる解析集団は偽陽性のマーカーを検出する可能性が高く、GMM法に不適である。
[具体的データ]

 

 

 

 

[その他]
研究課題名 大規模草地・飼料畑の活用のための高TDN飼料作物品種の育成
課題ID 212-c
予算区分 DNAマーカー
研究期間 2005〜2006年度
研究担当者 磯部祥子、奥村健治、中谷明弘(東京大学)、田畑哲之(かずさDNA研究所)、矢野昌裕(農業生物資源研究所)
発表論文等