ボディコンディションおよび乳量を指標とした乳牛繁殖性の推定
[要約]
ボディコンディションはスコアの絶対値ではなく、分娩後の最大減少量などの相対値でのみ繁殖性との相関が認められる。305日乳量から、分娩後の初回排卵日、初回発情日、および初回授精日の平均と範囲を推定できる。
[キーワード]
家畜繁殖、乳用牛、乳量、ボディコンディションスコア、発情、排卵
[担当]北海道農研・集約放牧研究チーム
[代表連絡先]電話011-857-9260、電子メールseika-narch@naro.affrc.go.jp
[区分]北海道農業・畜産草地、畜産草地
[分類]技術・参考
[背景・ねらい]
ホルスタイン種乳牛の育種改良により、乳量は持続的に増加を続けており、これに伴って繁殖性は低下している。乳量は繁殖性に直接影響するという報告がある一方で、エネルギーバランスを反映するボディコンディションスコア(BCS)の変化の方が、栄養分摂取量も考慮されているため、より優れた繁殖性の指標となるという報告も多い。また、排卵や発情の同期化を目的としたホルモン処置プログラムに対する反応性は牛群によって異なり、乳量水準が影響している可能性もある。そこで飼養管理に大きな問題のない牛群における、乳量およびBCSと繁殖性との関係を調べる。
[成果の内容・特徴]
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分娩後10週までのBCS測定値(絶対値)は、繁殖性に関する項目(初回排卵日、初回発情日、初回授精日、空胎日数)のいずれとも有意な相関は認められない。相対値としては、BCSが最低になる日(x)が初回排卵日(y)との間で(y
= 0.27x + 17, r = 0.400)、BCSの泌乳期間中の最大減少(x) が初回発情日(y)との間で(y = 30x + 41, r =
0.330)、それぞれ有意(P <
0.05)な相関を示す。これらは北海道農業研究センター(北農研)において、フリーストール主体、夏期は時間放牧で飼養される50頭の乳牛についての結果である。
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305日乳量は、初回排卵日(r = 0.428, P < 0.01)、初回発情日(r = 0.540, P < 0.001) (図1)、初回授精日(r =
0.423, P < 0.01) (図2)のそれぞれとの間に高い正の相関を示すが、空胎日数(r = 0.129, P = 0.4)との間に有意な相関はない。
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これら3つの繁殖性の項目について、回帰直線と誤差分散の平方根(SD)をもとに、乳量から予測される分娩後の平均的な日数と、その範囲(±2SD)を表1に示す。1年1産の季節繁殖化が可能な乳量水準は、6,000〜7,000kgが限界であると考えられる。
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初回排卵日と初回発情日については、切片がゼロに近いため、原点を通る直線に回帰させると、それぞれ、傾きは3.3(= 10 /
3)および6となり、乳量から、これらの日数を簡便に予測することができる。たとえば、乳量9t(9,000kg)では初回排卵は約30日、初回発情は54日となる。また初回授精日は初回排卵の約40日後となる。
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初回授精の受胎率は52% (26/50)であるが、受胎牛(9,654±385 kg, 平均±標準誤差)と不受胎牛(8,843±400
kg)で、305日乳量に有意な差はない。
[成果の活用面・留意点]
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乳牛群の季節繁殖化を計画する際の、繁殖性の観点から見た乳量水準の参考となる。
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牛群の初回排卵および発情日を、乳量から簡易に推定することにより、排卵および発情同期化などの、ホルモン処置プログラムを開始する時期の目安となる。
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北農研の牛群で得られた結果であることから、適切な飼養管理がなされていない牛群では、ここで示した日数よりも延長する可能性がある。
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:地域条件を活かした健全な家畜飼養のための放牧技術の開発
課題ID:212-d.1
予算区分:基盤
研究期間:2007〜2008年度
研究担当者:坂口 実
発表論文等:1) 坂口 (2008) 日畜会報、79(3): 353-359
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