「農試式診断グラフ」による農業生産法人の財務諸表の可視化と経営診断
[要約]
開発した「農試式診断グラフ」は、経営分析指標や資金の流れを「見える化」し、構成員が経営全体を把握する場面に貢献する。経営診断に用いる際は、基準値との差異分析により経営改善の道筋が整理できることから、円滑な合意形成と改善行動が期待できる。
[キーワード]
[担当]道立十勝農試・生産研究部・経営科、道立中央農試・生産研究部・経営科
[代表連絡先]電話0155-62-9828
[区分]北海道農業・水田園芸作
[分類]技術・普及
[背景・ねらい]
現在、今後の担い手となりうる経営体の育成が重視される中、農業生産法人の設立が急増しており、農業生産法人は、地域における農地の利用・保全を考える上で看過できない存在となっている。本研究では、農業生産法人が、持続的な発展を遂げる際に有効な管理手法の確立を図る。
[成果の内容・特徴]
- 農業生産法人における財務諸表の「見える化」を実現する「農試式診断グラフ」を開発した(図1)。図の左側から順に、収入(基準値との比較が可能)、生産性(付加価値額が大きいほど生産性が高い)、分配(稼いだ金額の分配)、収益性(経常利益と減価償却からなる手元資金)、資金繰り(負債償還を考慮した資金収支)を示している。「農試式診断グラフ」は、生産性(付加価値率)や資金繰り(償還圧)等の経営分析の指標や経営内での資金の流れをグラフにし、可視化したものである。
- 「農試式診断グラフ」は、自己の前年実績や優良経営の実績等、設定された基準値との比較を通して、現状の生産性を速やかに把握できる。「農試式診断グラフ」により、経営全体の生産性に問題が生じていると判断した際には、基準値との差異分析を通して要因を分解し、図示することが可能である(図2)。さらに、差異分析の結果、費用が生産性を悪化させていると判断した場合には、変化額の大きな順に費目をグラフ化することで、投入した費用に関する問題点の特定が可能になる(図3)。
- 特定できた問題点を整理し、具体的な改善の道筋を示すためには、項目、現状の問題点と要因、当面の課題(経営面・技術面)、将来的なビジョンの4点にまとめることが望ましい。技術的な問題点の洗い出しには、身近にある乳検データや生産履歴を活用し、「技術連関図」に示された技術の項目に着目することが有効である。経営面での問題点の把握するためには、法人経営者に対する面接調査を実施する必要がある。
- 以上のことをまとめ、図4に「農試式診断グラフ」による経営診断の手順を示した。「農試式診断グラフ」は、経営内容の可視化により、経営改善の道筋が明確になることから、農業生産法人における構成員間の合意形成と改善行動の円滑化が期待できる。
[成果の活用面・留意点]
- 農業生産法人において技術面と経営面の問題を洗い出す場面で活用する。
- 「農試式診断グラフ」は、エクセルのシートをホームページに公開予定である。
平成21年度北海道農業試験会議(成績会議)における課題名および区分
「農業生産法人向けカウンセリングツール「農試式診断グラフ」」(普及推進)
[具体的データ]
[その他]
研究課題名:農業生産法人が有する地域農業の維持・発展機能の解明
予算区分:共同研究(民間)
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:白井康裕、濱村寿史、西村直樹、原仁、山田洋文
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