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果樹ゲノム育種研究分野の概要
・遺伝資源を活用した果実形質向上に関する遺伝子の解析
・落葉果樹類のDNAマーカー,分子遺伝,ゲノム育種に関する研究
・果樹遺伝資源の生物多様性と進化,保全に関する研究



森口卓哉 (教授)
・ポリアミン生合成系酵素遺伝子の制御による果樹の機能改変


 皆さんはポリアミンという生体物質をご存じでしょうか?ポリアミンは正電荷した第一級アミノ基が2つ以上結合した直鎖脂肪族炭化水素の総称で、私たち人間も含めて全ての生物に普遍的に存在しています。最も一般的なポリアミンは、ジアミン類のプトレシン、カダベリン(マメ科植物に多量に存在)、トリアミンのスペルミジン、テトラアミンのスペルミンです。これらのポリアミンは、細胞分裂やDNAの複製のような細胞内過程、またはストレス反応などにおいて重要な役割をはたしていることが知られています。植物でもポリアミンはさまざまな重要な生理過程に関与しています。例えばこれまでに、ポリアミンは、胚発生、細胞分裂、形態形成、花器官の発育の促進だけでなく、果実成熟、果実日持ち性、耐病性、塩・浸透圧・異常温度などの環境ストレス耐性などの向上に関与していることが示唆されています。

 近年、工業化の拡大や生活レベルの向上による環境汚染が問題となっています。この環境汚染、特に地球大気圏のCO
の増加は、気候変動をもたらし、農業生産の様々な局面で問題が顕在化しています。もう一つの問題として人口の急激な増加による食糧危機があります。このように、人口を養うに十分な食糧を劣悪な環境条件下で生産する必要性に迫られていると言えます。この問題の対策の一案として、環境ストレスや病害ストレスに強い作物の育成が考えられます。ポリアミン生合成系の酵素遺伝子を導入することで塩や重金属等の複数の環境ストレスに強い植物を育成することが可能です (図1参照)。また、病害抵抗性についても付与されるとの報告もあります。そこで、ポリアミンを活用して果樹への環境ストレスや病害ストレス耐性の付与と、その機構解明に関する研究を進めています。


・落葉果樹における自発休眠機構の解明

 落葉果樹は秋から冬季に自発休眠に入ります。この自発休眠が破られるためには一定量の低温が必要で、低温の要求量は果樹の種類や品種・系統によって遺伝的に決まっています。低温要求量が満たされれば芽は萌芽できる状態になりますが、この季節(ニホンナシの場合はおよそ12月下旬や1月に相当)はまだ寒いため、芽の萌芽は抑制されています。この状態を他発休眠と言います。そして、春になって暖かくなると芽は萌芽して花を咲かせ果実をつけます。低温に遭遇しないと自発休眠から覚醒しないというシステムは寒さから守るために落葉果樹が身につけた素晴らしい形質です。ところが、最近の温暖化により、自発休眠の覚醒に必要な低温要求量が満たされないという現象が出てきています (図2参照)。ナシの仲間には低温要求量の極めて少ない種類があります。そこで、この特異的な低低温要求性のナシを活用して分子レベルでの休眠機構の解明に取り組んでいます。

 いずれの研究課題もまだまだ研究途上でこれから明らかにしなければないことが沢山ありますが、一緒に研究を行う意欲あふれる方を募っています。


山本俊哉 (教授)
 日本の果樹生産の約半分を占めるバラ科果樹(ナシ,モモ,リンゴ,ビワ,ウメ,アンズ,オウトウなど)を対象にして,ゲノム解析研究を行っています.具体的には,DNAマーカーの開発,DNA鑑定,遺伝子地図の作成,有用形質の選抜マーカーの開発を行っています.

 DNA鑑定では,信頼度が高く,識別能力も高いSSRマーカー(別名マイクロサテライト,ヒトの親子鑑定で広く利用)をモモとナシで多数開発しました. モモでは,多くの枝変わり品種の由来が間違っていることが明らかとなり,ナシでも親子の関係が誤っている例が多く見られました(図3:PDF). 日本のナシ栽培の第2位を占める「豊水(ほうすい)」は,両親不詳となっていましたが,DNA鑑定により,交雑から約50年後に本当の親を突きとめること ができました.日本の栽培モモ品種の由来が,DNA鑑定の結果,「上海水蜜桃(しゃんはいすいみつとう)」と呼ばれる特定の中国由来の品種であることを明 らかにしました.DNA鑑定技術は,果樹の品種名の不当表示を抑制,外国からの果実の不法輸入を防止,品種登録や権利侵害でのトラブルを解決で期待されて います.

 モモ品種「赤芽(あかめ)」と「寿星桃(じゅせいとう)」の雑種集団を用いて,連鎖地図を作成しました(図4:PDF). ネコブセンチュウ抵抗性,葉色,花色,核の粘離性,核廻り色,樹高の有用形質の場所を位置付けることができ,またこれらの形質に連鎖するDNAマーカーを 取得することができました.さらに,果肉色,酸度,雄性不稔性の遺伝子座を特定することができました.これらの情報やDNAマーカーは,世代のサイクルが 長く栽培に広大な面積を要するモモの効率的品種育成に期待されています.モモで得られた連鎖地図やDNAマーカーは,モモと同じサクラ属に分類されるアー モンド,スモモ,ウメ,アンズ,オウトウ,サクラに利用することができ,属内でゲノム構造が保存されていることが明らかになりました.

 ナシでは,世界に先駆けて連鎖地図を作成しました.ニホンナシ品種「豊水(ほうすい)」のセイヨウナシ品種「バートレット」の雑種集団を用いて,詳細な 連鎖地図を作成しています.近縁種であるリンゴで開発されたSSRマーカーがナシで利用できること,SSRマーカー連鎖地図上の位置がナシvsリンゴでほ ぼ同じであり,両者でゲノム構造が保存されていることを明らかにしました.これらの情報は,同じナシ亜科に属するビワ,カリン,マルメロへの応用に利用で きます.また,ナシでは大量の発現遺伝子の塩基配列解析を開始しました.果実の発達,果実を特徴付ける遺伝子の単離と機能解明が期待されます.


國久 美由紀 (准教授)
近年の遺伝研究は、シーケンス技術の急発展により、過去に類を見ないスピードで進展しています。自分自身の全ゲノム配列を取得することも可能となった今、吐き出される大量のデータをどう活用し、生かしていくかが研究の成否を決めます。従来の遺伝解析技術に、これら新技術や大量データを加えながら、リンゴを主体としたバラ科果樹のゲノム解析を行い、育種に繋げる研究を行っています。

.優良品種「ふじ」の遺伝解析
  リンゴ品種「ふじ」は日持ち性と食味に優れ、国内および世界総生産量のトップを誇る優良品種です。このため、「ふじ」を親にした新品種が多く生み出されています。そこで「ふじ」のゲノム解読を行うことで、「ふじ」の染色体(DNA)がこれらの新品種にどのように遺伝していったのかを追跡しました(図1)。さらに、これらの新品種に受け継がれた「ふじ」の優秀な性質(日持ち性、蜜入りなど)と染色体部位とを比較することで、「ふじ」のどの染色体部位が、優良な性質を制御しているのかを明らかにしました(図2)。これにより、「ふじ」の日持ち性や蜜入りを受け継いだ実生を結実前の幼苗段階で選抜できる可能性が高まりました。

・「王林」「あかね」など国内品種の交配集団を用いた諸性質の遺伝解析
同じ交配親から生じた子供集団は、遺伝解析のための理想的な材料です。リンゴ育種の現場保有しているこれらの集団を利用して、収穫期、酸度、褐変性、さび、つる割れ、収穫前落果、果皮色などの原因となる染色体部位を特定しました(図3)。これらの知見を基にして、目的の性質を持った個体を得るための交配組合せの選定や、果実形質予測のための技術開発に取り組んでいます。