被害の実態 農家・圃場での対策 地域単位での対策 対策まとめ 鳥種別生態と防除 資料 Q & A

●鳥害対策のまとめ

■鳥害対策の難しさ

 鳥害対策というと、各種機器を用いて圃場から鳥を追い払おうとするイメージがありますが、なかなか効果があがりません。その理由はいろいろありますが、特に知っておいてほしいことを3つ挙げましょう。
1) 鳥は賢い−ちょっとした変化に警戒しますが、単なる脅しにはすぐに慣れてしまいます。
2)鳥はしつこい−おいしい農作物が実るようないい餌場には執着するため、防鳥機器に接する機会も多くなり、やはり防鳥機器に慣れてしまいます。
3)鳥は付和雷同−群れで生活し、安全かどうか、あるいは餌があるかどうかを他の鳥の様子から学習します。
 こうした手強さは、何もカラスだけのものではありません。ヒヨドリやスズメ、カモも十分に「賢い」のです。

 これらの特徴、特に1)と2)は哺乳類(獣害)にもほぼ共通し、こけおどしでは長く通じないのは同じです。大きな違いは、哺乳類なら柵やネットなどによる侵入阻止が現実的な被害防止策になりえますが、ごく小規模な圃場以外では鳥の侵入を防ぐことは非現実的だということです。やはり飛べることが鳥の最大の特徴であり、獣害に比べても鳥害対策が難しい理由です。
 飛ぶことのできる鳥は、地球上のあらゆる動物の中で移動速度がもっとも速く、行動範囲ももっとも広いのです。したがって、農家・圃場単位の防除対策だけでは被害がよそへ移るだけになります。全体的な被害軽減のためには市町村や都道府県単位での広域的な対策を計画的に行うことが大切なのです。

■その他の鳥害対策

 空港ではハヤブサなどの猛禽類を用いた鳥の追い払いも試みられています。慣れを生じることはなく、むしろ繰り返し猛禽類を飛ばすことでその地域には鳥が近づかなくなるようです。しかし、猛禽類を訓練して使いこなすには鷹匠の技術が必要で、農業現場での応用は難しいでしょう。
 鳥害抵抗性作物の育種も、ソルガムなど一部の作物で研究されている例がありますが、わが国ではほとんど取り組まれていません。需要を考えても実用性はありません。


●結論

 結論的には、鳥の慣れ(学習)を打破する追い払い法は現状では見当たりませんし、近い将来開発される見込みも少ないでしょう。そういう状況下で、次のようなことが大事です。

(1)防鳥機器に頼りすぎない
 鳥は新奇なものをとりあえず避けますので、どんな機器でも初めは「効果がある」ように思えます。しかし、実際に鳥に危害を加えるわけではないので、鳥はどんな機器にも早晩慣れてしまいます。また、鳥は広い範囲を動き回るので、「効果」の程度は周辺にある他の餌の量や防除策等によって大きく左右されてしまいます。農薬と違って、今のところ防鳥機器については公的な認定制度もありません。
 防鳥機器は、短期間で効果がなくなるものだと思って使いましょう。

(2)コスト計算をする
 どんな防鳥機器にも鳥は慣れてしまいますが、何もやらないよりは被害が減ります。大事なことは、コストに見合うかどうかです。被害状況や防除手段の効果、価格等についてできるかぎり数値で評価し、それを元に費用対効果を計算してその防除手段が導入に値するかどうか十分検討しましょう。
 配慮すべき項目を表にまとめました。ただし、資材導入の補助金等については配慮していません。

項目 単位 値の例 説明
(栽培条件、作物、被害に関する情報)
10a当たり収量 Kg 500 鳥害がない場合の予測収量.
単価 250 生産物の売価.
被害率 割合 0.2 何も鳥害対策をしていない場合のある時点での被害率.
相対減収率 割合 0.8 ある時点での被害率と最終減収率との関係.
減収率 割合 0.16 被害率×相対減収率.
被害額 20000 10a当たりの年間被害額.反収×単価×減収率.
(防鳥資材に関する情報)
機材単価 30000 機材1台当たりの購入費(負担額).
耐用年数 4
運用費単価 0 1年1台当たりの燃料費、メンテナンス・修理費、手間賃など.
機材必要数 組・台 2 10a当たりに必要な数.
機材費 15000 10a当たりの年間コスト.
機材の効果 割合 0.2 無対策の場合に比べて被害率をどれだけ減らせるか.
対策時被害額 4000 機材を導入した場合の予測被害額.無対策時の被害額×機材の効果.
対策総コスト 19000 機材費+対策時被害額.
(結論)
費用対効果 割合 1.05 被害額÷対策総コスト.1を上回れば対策導入の価値あり.
増益 1000 機材導入による10a当たりの増益分.プラスなら導入の価値あり.


(3)状況に応じた対策(圃場・農家レベル)
 大規模に商品作物を作っているのか、もっぱら自家消費用の小規模な圃場かでは自ずと対策が違います。万能薬はありません。大規模な場合には、どちらかというと耕種的手法を中心に、小規模な場合には物理的遮断(防鳥網)や個人的な創意工夫による追い払いを中心に考えましょう。

(4)駆除によって緊張関係を維持する
 被害が常態化している地域では、鳥と人との緊張関係が失われていることが多いようです。そうならないためには、正式に許可を取って銃器による有害鳥獣駆除も適切に実施しましょう。

(5)鳥害を完全に防ごうとはしない:補償制度でカバーを
 鳥は広域で移動するので、農家単位での被害対策(追い払い)と広域での被害軽減は両立しにくいものです。地域としてはたいした被害ではなくても、特定の農家が甚大な被害を被ることがあります。いたずらに防鳥機器にコストをかけるよりも、被害が集中したところに補償した方が安上がり、という発想も必要でしょう。ガン類やツル類といった大型の保護鳥渡来地では自治体が独自の補償制度を設ける例も出てきています。
 なお、共済制度については全国農業共済協会をご参照ください。

(6)地域に応じた農業(地域・自治体レベル)
 特定の鳥害が多発し、耕種的な工夫で防除できないなら、それはその地域に向かない作物という考え方も必要です。例えば、カルガモが多い河川沿いでは水稲の湛水直播は難しいようです。他の栽培方法や作物を探求します。

(7)個体数管理へ(地域・自治体レベル)
 有害鳥類の個体数や移動に関して、信頼できる全国的な資料はまったくありません。害虫の発生予察並みの体制が必要です。
 農業地域でのカラスやハトは、農作物によって個体数が高密度な状態にあります。地域レベルで長期的に被害を減らしていくには個体数調整が必要でしょう。ただ、駆除だけでは個体数は減らせません。鳥に餌を供給している作付け体系や農作物残さ放置といった大元から見直す必要があります。