トウモロコシの病害 (1)


モザイク病 (mosaic-byo) Mosaic
病原:Sugarcane mosaic virus (ScMV)、Cucumber mosaic virus (CMV)、Maize dwarf mosaic virus (MDMV)、ウイルス
 トウモロコシの最も重要なウイルス病。初め葉身に葉脈に沿った黄色の条斑からなるモザイクができるが、激発すると株全体が大幅に萎縮する。病原ウイルスは5月頃から発生するアブラムシにより伝搬される。病原ウイルスScMVはサトウキビ系統を判別品種として10以上のストレインに分けられている。わが国ではScMV-B系統が発生している。また、メヒシバ、アワ類などにも同じウイルスが寄生しており、伝染源となることが明らかになっている。2003年には種子伝染性MDMVによるモザイク病が発生した。


すじ萎縮病(suji-ishuku-byo) Streaked dwarf
病原:Rice black-streaked dwarf virus (RBsDV)、ウイルス
 系適試験の病害抵抗性項目の一つとされている重要なウイルス病害。葉が上向きにまくれ上がり、特に雌穂より上の節間が詰まる。その結果、株全体が萎縮し、激発時は草丈が健全な個体の1/3以下になる。葉の裏側や包葉の表面には隆起したロウ白色〜赤褐色のすじが現れる特徴がある。病原ウイルスはイネ黒すじ萎縮病と同じもので、イネ科作物に広く寄生するが、これがヒメトビウンカ等によって伝搬され、広がる。


条斑細菌病(johan-saikin-byo) Bacterial stripe
病原菌:Burkholderia andropogonis (Smith 1911) Gillis et al. 1995、バクテリア
 九州など温暖地で発生が増えている斑点性の細菌病。梅雨期以降に灰白色〜黄褐色、条状、長さ2〜10cm、幅3〜5mm程度の病斑を形成する。ソルガムの場合のようにはっきりとした長い条斑にはならず、やや短い斑点が多数連なって形成されることが多い。病徴は下位葉から現れるが、上位葉が侵されることはまれである。従って被害も限定され、あまり大きな問題とはならない。梅雨が長引いたときなど、高湿条件で発生が多くなる。


褐条病(katsujo-byo) Bacterial brown stripe
病原菌:Acidovorax avenae subsp. avenae (Manns 1909) Willems et al. 1992、バクテリア
 細菌病。若い葉では初め灰白色、楕円形の小病斑を生じ、これが葉脈に沿って次第に縦に広がり、幅5〜6mm、長さ30cmにも達する条斑となる。病斑部は紙のように薄くなって裂けやすくなる。ときには雌穂の上位茎部に発生し、雌穂は不稔となり、枯死するときもある。罹病葉上からは多数の細菌が検出され、これが風雨などにより飛散して伝播する。病原バクテリアはトウモロコシの他にイネ、アワ、シコクビエ、キビなど多くのイネ科植物に寄生する。


倒伏細菌病(touhuku-saikin-byo) Bacterial stalk rot
病原菌:Erwinia chrysanthemi pv. zeae (Sabet 1954) Victoria et al. 1975, Pseudomonas marginalis (Brown 1918) Stevens 1925、バクテリア
 多発すると被害の大きい細菌病。一時山梨、静岡等で発生し問題になった。梅雨期から初夏にかけて最も激しく発病し、初め葉身で水浸状の病斑を生じるが、徐々に稈の内部が軟化腐敗し、ついには子実、稈の髄が中心部から腐敗する。稈では害虫の食痕などから感染し、発病部の髄から褐色に腐敗し倒伏する。発病株からの菌泥が風雨や虫により運ばれて伝染する。病原として2種の細菌が関与する。


赤かび病(akakabi-byo) Gibberella ear rot
病原菌:Fusarium asiaticum O'Donnell, T. Aoki, Kistler & Geiser, F. fujikuroi Nirenberg, F. proliferatum (Matsushima) Nirenberg ex Gerlach & Nirenberg, Gibberella zeae (Schweinitz) Petch (= F. graminearum Schwabe), G. moniliformis Wineland (=G. fujikuroi mating population A = F. verticillioides (Saccardo) Nirenberg)、子のう菌
 F. asiaticumおよびF. graminearum s.str.のF. graminearum種複合体およびF. fujikuroiF. proliferatumF. verticillioidesなどのG. fujikuroi 種複合体によって引き起こされ、子実に鮭肉色または淡紅色のかびを生じる。これらの菌はかび毒(マイコトキシン)を産生することでも知られており、前者はデオキシニバレノール(DON)などのトリコテセン系毒素およびゼアラレノンを、後者はフモニシン類を産生する。Fusarium属菌は圃場の常在菌であり、Fusarium属菌を完全になくすことは困難であるため、菌の増殖と毒素産生開始を抑制することが防除の中心となる。


青かび病(aokabi-byo) Blue mold kernel rot
病原菌:Penicillium italicum Wehmer、Penicillium sp.、不完全菌
 穂をかびさせる糸状菌病。穂に発生し、子実や穂軸に灰緑色のかびを生じる。子実では種皮にとどまることが多いが、まれに胚も侵される。圃場ですでに発生し、貯蔵中に広がることが多い。また、種子伝染し、播種後種子が土壌中で青かびに覆われ、苗立枯を起こすこともある。病原菌自体の感染力は弱く、害虫の食痕などから発生することが多い。


フザリウム茎腐病(Fusarium-kukigusare-byo) Fusarium stalk rot
病原:Fusarium graminearum Schwabe s.str., F. oxysporum Schlechtendahl、糸状菌
 2012年10月に北海道石狩管内で発生した糸状菌病。トウモロコシの雌穂が黄熟期に垂れ、全体が枯れ上がる症状は根腐病と酷似する。発病すると根量が減少して、根は表面が赤色となって、やや叢生する。地際部の茎表面も黄褐色に枯れ、茎内部は空洞化して白〜赤色のかびが充満する。病原菌はF. graminearumおよびF. oxysporumで、前者は赤かび病菌と同一で主に茎内部から分離されて病原性が強く、デオキシニバレノールを産生し、後者は主に根から分離されて病原性はやや弱い。北海道根釧地方でもF. graminearumによる萎凋症様の病害として報告されており、本病が根腐病と同時に発生していると推定される。幼苗検定では、トウモロコシ品種間の抵抗性差異は明瞭である。


ごま葉枯病(gomahagare-byo) Southern leaf blight
病原菌:Cochliobolus heterostrophus (Drechsler) Drechsler (=Bipolaris maydis (Nisikado et Miyake) Shoemaker)、子のう菌


レースO

 最も重要な糸状菌病。梅雨明け頃から発生が始まり、葉および葉鞘にオレンジ色〜黄褐色、楕円形、長さ0.5〜2cm、幅2〜5mm程度の病斑を多数形成する。多発した場合は植物全体が枯れ上がる。8月から9月にかけて発生が増加する生育後期の病害。病原菌は分生胞子が風雨で飛散して、まん延する。レースはトウモロコシの雄性不稔細胞質の型に応じて存在し、日本ではレースOが発生している。


斑点病(hanten-byo) Brown spot
病原菌:Physoderma maydis Miyabe、つぼかび菌
 雌穂の包葉で発生することが多い斑点性の糸状菌病。病斑は初め緑色の色あせた小点だが、後に褐色ないし紫褐色となり、直径2ー5mmの円形または楕円形の病斑となる。病斑は融合して不定形となり、表皮を破れば中には休眠胞子があり、粉状を呈する。この罹病組織が地面に落ちて越冬し、翌年胞子が発芽して遊走子を出してまん延する。


北方斑点病(hoppou-hanten-byo) Northern leaf spot
病原菌:Cochliobolus carbonum Nelson (=Bipolaris zeicola (Stout) Shoemaker)、子のう菌


レース3

 最近冷涼地で発生が増加している斑点性の糸状菌病害。梅雨期前後に下葉から発生し、周縁部褐色、中心部灰白色、条状、長さ0.5〜3cm、幅0.1〜0.5cm程度の中肋に沿った病斑を多数形成する。激発した場合、病斑が拡大・融合し、葉が枯れ上がる。この病徴はレース3によるもので、わが国での発生はこのレースが中心であるが、やや短い条斑を形成するレース2も発生している。特定のトウモロコシ系統に円形の病斑を形成するレース1は日本ではまだ発生していない。

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