研究内容

私たちの研究グループで行われている主な研究プロジェクトを紹介します。

登熟期高温で乳白粒が発生する分子機構の解明と高温登熟耐性イネの開発

新しい食味や利用特性をもつ米や育種素材の開発

タンパク質集積機構の解明と有用物質生産への利用

 

登熟期高温で乳白粒が発生する分子機構の解明と高温登熟耐性イネの開発

 

乳白粒

イネは熱帯アジア原産ですが、意外にも、暑さに弱い作物です。近年、温暖化がすすんで、西日本や北陸地域を中心に、米の登熟不良が頻発しています。100年後の将来には、日本の気温は2-3℃も上昇するとも予測されています。私たちが白米として食べる部分を胚乳といいますが、この部分は、通常ならば、秋に米が稔る頃には、デンプンの粒がぎっしりと詰まって、半透明の硬い米粒となります。ところが、穂が出た後に26℃以上の高い気温に長時間遭遇すると、デンプンの粒が充分に発達せずに、デンプンの粒と粒の隙間に空気が残ってしまいます。その結果、空気の部分で光が乱反射して、磨り硝子のように白く濁ってみえる乳白粒となります。みなさまも、猛暑の年にお米の袋の中に、右の写真のような真っ白い米粒が混じっているのをご覧になったことがあるかと思います。この乳白粒は精米の過程で割れやすく、乳白粒を多く含む米は食味が劣ります。目で見てすぐに判別できるため、乳白粒を多く含む米は商品価値が下がり、生産地のブランドイメージの低下につながりかねません。そのため、いかにして乳白粒の発生を防ぐかは、水稲生産者にとって重要な課題です。

 

高温に遭遇しても乳白粒を発生しにくい高温登熟耐性イネの品種改良は全国で盛んに行われていますが、毎年必ず猛暑となるわけではないので、高温に強い耐性品種を選ぶためには、大変な時間と労力がかかります。そこで、私たちの研究グループでは、高温に遭遇したイネや米粒の中で起こっている生理変化を調べて、米粒が白くなる原因を究明することによって、乳白粒を発生しにくい高温に強いイネを作出する方法の確立を目指しています。

 

穂が出てから3週間の登熟途中の米粒が最も高温に弱い部分であることが知られていたので、高温処理した登熟途中の米粒を取り出し、イネの3万個の遺伝子の発現を一斉に解析できるマイクロアレイという手法と、遺伝子が働いた結果できてくる糖などの米成分物質を一斉に調べられるメタボロームという手法を組み合わせることによって、米粒中で起きている変化を解析しました。その結果、高温に遭遇した米粒の中では、デンプンを合成する遺伝子の働きが低下するとともに、デンプンを分解する酵素のα-アミラーゼの遺伝子の働きが強まることがわかりました(Yamakawa et al 2007, Yamakawa and Hakata 2010)。また、登熟温度の上昇によって、α-アミラーゼの酵素活性が上昇し、デンプンが分解されて生じる糖も多く蓄積しました。これらのことから、高温に遭遇した米では、胚乳にデンプンを蓄積する能力が低下すると同時に、せっかく作ったデンプンの一部を消費してしまうため、米の中に充分な量のデンプンを蓄えることができなくなり、乳白粒となっていることが明らかとなりました。そこで、遺伝子操作によってα-アミラーゼを働かなくし、胚乳のデンプンが分解されにくいイネを作成したところ、できあがったイネは高温で発生する乳白粒が大幅に減少しました(Hakata et al 2012)。

 

乳白粒発生メカニズム
アミラーゼ抑制

 

現在、私たちの研究グループでは、実用的な高温耐性イネを開発するために、遺伝子変異イネの利用を試みています。わが国では、試験研究機関や大学が、多数の変異イネを保存しています。それらの中から、高温で乳白粒が発生しにくい系統が見つかっており、リン脂質代謝や活性酸素の発生が乳白粒の発生に関与することが示唆されています(山口ら 特許第5812386号)。これらの高温耐性系統やα-アミラーゼ遺伝子が遺伝変異によって働くなった系統を利用し、育成途中のイネに有用遺伝子変異を交配で組み入れることで、温暖化に負けないイネの開発を目指しています。

 

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新しい食味や利用特性をもつ米や育種素材の開発

 

米飯食味

これまでは、コシヒカリに代表されるように、軟らかくて粘りのつよい米が美味しいとされ、イネの品種改良がされてきました。ところが、現在、さまざまな食感や加工特性をもつ米が求められています。スーパー等で販売されるおにぎりや餅菓子では、冷めても軟らかいことが望まれます。また、日本酒をつくる原料米でも、蒸した後に冷ましてから麹菌で米を溶かすため、冷めても軟らかい米が好まれます。これに対して、食文化の多様化によって、硬めのご飯が望まれる場合も多くなりました。例えば、チャーハン、カレー、牛丼などのように、硬めで米粒どうしがくっつかないほうが美味しく食べられる料理もあります。また、お弁当工場などでは、炊いたご飯が容器にくっつかないほうが好まれます。同様に、工場でつくられるお餅でも、すぐに固まり切り分けられるものが望まれます。

 

米粒デンプン組成

ご飯の粘りや硬さは、米の80%をしめるデンプンの影響を大きく受けます。デンプンは多数の糖がつながった巨大分子で、直鎖状に糖が長くつながったアミロースと、糖の鎖が枝分かれしたアミロペクチンという2種類の成分からなります。アミロースは、東南アジア等の外国で好まれるインディカ米に多く含まれ、ご飯を硬くします。これに対して、アミロペクチンは、もち米の成分で強い粘りを出しますが、枝分かれした鎖の長さが長いと冷めた後に硬くなり、短いと軟らかいままになります。

 

アミロースとアミロペクチンの量と性質は、それらを作る酵素の働きで決まります。私たちの研究グループでは、これらの酵素の働きがちょうど良い組み合わせとなったイネを探して品種改良に利用することで、多様なニーズに対応するイネを開発しています。

 

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タンパク質集積機構の解明と有用物質生産への利用

 

コメ(イネ種子)には、約8%のタンパク質が含まれています。それは、穀物タンパク質の中で最も栄養価が高いと評価される一方で、加工特性への寄与はほとんどありません。一般にイネの栽培では、収穫量を高めるためにしばしば窒素肥料を多く投入しますが、その結果コメのタンパク質含有量が高くなり、食用・加工用いずれの用途でも品質が低下するとされています。つまり、コメタンパク質は少ない方が良く、産業的には活用されていない資源になっているのが現状です。今後の稲作の発展には、コメタンパク質含有量の制御法を開発しつつ、付加価値を高めて用途拡大につなげる研究が重要となります。

 

追肥の影響

コメの主要なタンパク質は、グルテリン、プロラミン、グロブリンといった貯蔵タンパク質と呼ばれる種類のもので、発芽の際の窒素栄養源として使用されます。それらは種子の胚乳細胞の中でプロテインボディ1(プロラミン)およびプロテインボディ2(グルテリンとグロブリン)と呼ばれる構造物に収納されます。研究の第一テーマでは、このような貯蔵タンパク質を始めとした種子のタンパク質が、胚乳細胞内に集積するメカニズムを明らかにすることをめざしています。例えば出穂期の窒素追肥は、アミノ酸合成を活性化して特定の貯蔵タンパク質(グルテリンおよび少システイン型13kDaプロラミン)含有量を高める一方で、多糖類、特にセルロース含有量を低下させることを見いだしました(Midorikawa 2014)。少システイン型13kDaプロラミンは、プロテインボディ1(PB1)の外周部に多量に集積することも明らかにし、PB1の成長と発芽の際の窒素栄養源確保に重要な役割を果たしていると考えています(Saito 2012)。今後は、セルロース含有量とコメの品質の関係についても研究を進めるつもりです。

 

別の研究テーマでは、遺伝子組み換え技術を活用したコメタンパク質の高付加価値化をめざしています。いわゆる「分子農業」分野の最近の研究では、作物の種子は組換えタンパク質の生産ツールとして有用であることが指摘されています。我々は、タンパク質集積機構を解析していく過程で、このような研究に有用な新しい方法論を提示して特許を取得しました(Kuroda 特許JP4644777)。我々のタンパク質発現システムは、医薬用途タンパク質をコメに集積させる目的に有用であることが確認され(Shigemitsu 2012, Yuki 2013 および2016, Tokuhara 2013)、現在は医学分野の研究者によってコメ型経口ワクチンの開発が進められています(Yuki 2013, Mejima 2015, Takeyama 2015, Kashima 2016)。コメは冷蔵せずに長期の保存が可能であることから、コメ型経口ワクチンは特別な保存施設がない場所でも使用できると考えられます。コメタンパク質に関する我々の研究は、コメ型経口ワクチンに限らず、コメを用いた様々な医薬品の効率的製造を実現する基盤を提供できます。作物は、自然エネルギーで駆動する製造システムでもあるのです。

 

水耕栽培

以上のような研究と並行して、研究を加速するいくつかの基本技術を開発しました。複数遺伝子導入のためのプラスミドセット(Kuroda 2010)は、様々な組換え植物の研究に利用されています。また「Single-tube hydroponics」と名付けた作物の簡便高密度水耕栽培法(Kuroda 2015)は、組換え植物の研究だけでなく、変異体のスクリーニングや品種育成にも役立つものです。詳細情報については発表論文を参照ください。

 

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