家畜排泄物を中心とした地域循環利用モデル


[要約]

堆肥生産プラントを利用して酪農経営からの家畜排泄物の処理・利用に取り組んでいる地域を対象に、選択すべき過剰散布解消策と、地域全体における酪農家の所得や処理費用負担額、堆肥生産プラントの経営収支等を把握できる地域循環利用モデルを作成した。

[キーワード] 家畜排泄物、地域循環利用、過剰散布解消、堆肥生産プラント、モデル
[担当] 中央農研・関東東海総合研究部・総合研究第5チーム
[連絡先] 0298-38-8527
[区分] 関東東海北陸農業・関東東海・総合研究
[分類] 行政・参考

[背景・ねらい]

家畜排泄物の適正な処理・利用を図るためには、個別経営の枠を超えた地域としての対応が求められている。そこで、堆肥生産プラントを利用して処理・利用に取り組んでいる地域を対象に、選択すべき過剰散布解消策が把握できるモデルを線形計画法により作成した。

[成果の内容・特徴]

  1. モデルの対象は、堆肥生産プラント(以下「プラント」)を利用して家畜排泄物の共同処理を行うD町とする。当モデルでは、地域内全酪農家からの家畜排泄物の処理・利用問題を扱う。
  2. モデルは、酪農家における過剰散布の解消(飼料畑への投入上限量400kgN/年/ha)を必須条件に置いた上で、地域全体の「酪農家所得の合計+プラントの経営収支」を最大化するにはどのような対応策を選択するべきかを問題とする(線形計画法により作成)。
  3. モデルは、家畜飼養、家畜排泄物の処理・利用、生乳や堆肥等の販売、耕種農家での堆肥投入等のプロセスから成る。酪農家は自家処理施設の有無で分け、群と把握して計算する。対象地域における乳牛頭数や1頭当たり飼養費、ふん尿処理費、自給飼料費、プラント運営費、利用料金、諸販売価格(生乳や堆肥等)、農地面積等を入力すれば、上記入力条件ごとに、選択すべき過剰散布解消策(酪農家の飼料作拡大・還元、 酪農家の自家処理・堆肥販売、プラントでの処理・堆肥販売の三者から複数プロセスを選択可能)と、酪農家所得や処理費用負担額、プラントの経営収支等を把握できる(表1)。
  4. 表2は、当モデルによる試算結果を示したものである。うちケース1は、過剰散布の解消措置を行わない場合、すなわちD町の現状を示したものであり、プラントの経営赤字(779万円/年)、並びに酪農家における過剰散布(45戸計で102,251kgN/年)が発生している。
  5. ケース2は、プラントの費用が初期条件のもとで、過剰散布の解消措置を行った場合である。過剰散布解消策として、酪農家の飼料作拡大と自家処理・堆肥販売を選択する。すなわち、地域全体でみれば、プラントによる処理一元化の経済効果が発揮されないことを意味する。
  6. 過剰散布解消策として「プラント処理」を選択するのは、自家処理施設無農家については、プラントの運営費用が「現状」(ふん尿1t当たり6,322円)の62%水準に低下したとき(ケース3)、施設有農家については、同35%水準に低下したとき(ケース4)となる。これらは、地域全体でみた場合のプラント処理の経済的根拠が生じる水準であり、プラントの費用低減、処理能力や稼働率向上を図る上での目安を示している。

[成果の活用面・留意点]

  1. 堆肥生産プラントを利用して家畜排泄物の処理・利用を図ろうとする地域において、地域全体で発生する処理費用、選択すべき対応方策、並びにプラントの処理能力や稼働率向上を図るための目安を把握する上で参考となる。
  2. 当モデルでは、耕種農家における堆肥投入による所得への影響を考慮していないこと、製造された堆肥は耕種農家が全量購入を前提としていること、また、当モデルで設定した草地や普通畑への施用可能量は諸条件により変わり得ることには留意する必要がある。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名 :家畜排泄物を中心とした地域循環システムのモデル構築
予算区分 :有機性循環利用
研究期間 :1999〜2001年度
研究担当者 :山本直之、生雲晴久、山口武則
発表論文等 :1)山本・生雲・山口 (2000) 農業経営通信 204:26-29.
  2)山本・生雲・山口 (2001) 農業技術 56(9):416-420.
  3)山本・生雲・山口 (2001) 平成13年度日本農業経営学会研究大会(口頭).

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