広食性天敵オオメカメムシ類の飼育法


[要約]

複数種の園芸害虫を捕食する捕食性天敵オオメカメムシ、ヒメオオメカメムシは、オオタバコガまたはスジコナマダラメイガの冷凍卵を餌とし、脱脂綿等の起毛性柔軟材料を産卵基質とすることにより簡易に飼育できる。

[キーワード] 捕食性天敵、オオメカメムシ、ヒメオオメカメムシ、鱗翅目冷凍卵、起毛性柔軟材料、飼育
[担当] 千葉農総研・生産環境部・応用昆虫研究室
[連絡先] 0475-52-4315
[区分] 関東東海北陸農業・関東東海・病害虫
[分類] 科学・参考

[背景・ねらい]

近年、海外から導入された種を含めて多種類の天敵昆虫が生物農薬として農薬登録され、使用が開始されている。しかし、これらはそれぞれ1種類または1グループの害虫に対してのみ有効な天敵である。従って、複数種の園芸害虫が混発する条件下ではそれぞれの害虫に対応した複数種の天敵を同時に導入しなければならない。オオメカメムシおよびヒメオオメカメムシは日本の在来種であると同時に、アザミウマ類、コナジラミ類等の複数種の微小害虫や鱗翅目害虫等の卵を捕食する天敵である。既に利用されているヒメハナカメムシ類も複数種の害虫を捕食するが、オオメカメムシ類のほうが大型でより多くの捕食量を期待できるため、これらを大量増殖し生物農薬として利用する意義は大きい。そこで、両種を生物農薬として利用する場合に必要となる飼育法の確立を図る。

[成果の内容・特徴]

  1. オオタバコガ冷凍卵の餌としての有効性を知る目的で、単位時間当たり捕食量と発育日数を調査した。22〜30℃、15L9D条件下において、オオメカメムシ、ヒメオオメカメムシ両種の捕食量は、温度が高いほど増加し、発育期間は短くなった(表1)。卵〜幼虫期における飼育温度と発育速度の関係から両種の発育零点と有効積算温量を求めたところ、オオメカメムシが13.9℃、555.6日度、ヒメオオメカメムシが16.2℃、369.0日度であった。
  2. オオメカメムシ、ヒメオオメカメムシはともに脱脂綿、平面繭(平板上でカイコに吐糸させた不織布)、毛糸などの柔軟材料に産卵し、特に起毛性の高いものを産卵場所として好む傾向が確認された(表3)。また、26℃、15L9D条件下で得られた産卵当日の卵を一定期間低温(10℃)に遭遇させ、その後26℃条件下に戻して発育させたところ、冷蔵日数10日までは孵化率の顕著な低下は認められなかった。さらに、26℃へ移行したのち孵化までの発育期間は、冷蔵期間の長さの影響を受けなかった(図1)。すなわち、卵冷蔵により、10日間程度までは品質を損なわずに飼育開始時期を遅延させることが可能であると考えられた。
  3. ガラスシャーレにろ紙を敷き、オオタバコガまたはスジコナマダラメイガの冷凍卵(餌)と脱脂綿(産卵場所)および水を含ませた脱脂綿(水分保持用)を入れてから、クッキングペーパーを挟んで蓋をする簡易な方法により、両種の採卵および長期間にわたる飼育が可能であることを明らかにした。

[成果の活用面・留意点]

  1. オオメカメムシ、ヒメオオメカメムシを生物農薬として利用する際の大量増殖に向けた基礎資料とする。
  2. 餌交換は2ないし3日毎に行う。

[具体的データ]

            表1 オオメカメムシ卵〜幼虫各齢期における温度と捕食量・発育日数との関係

           表2 ヒメオオメカメムシ卵〜幼虫各齢期における温度と捕食量・発育日数との関係

表3 各供試素材に対するオオメカメムシ
類の産卵割合(%)

     図1 ヒメオオメカメムシ卵の冷蔵処理日数
     と孵化率・発育日数との関係
     注)冷蔵処理温度は10℃。

[その他]

研究課題名 :捕食性カメムシ類の生態解明と増殖技術の開発
予算区分 :県単
研究期間 :2001〜2004年度
研究担当者 :大井田寛、上遠野冨士夫、清水喜一
発表論文等 :1)大井田、清水(2001)第45回日本応用動物昆虫学会大会講演要旨集:124.
  2)生物農薬及びそれに用いる天敵昆虫の増殖方法(特許出願中)
  3)大井田(2002)千葉の植物防疫 97:11〜13.
  4)大井田、上遠野、清水(2002)第46回日本応用動物昆虫学会大会において発表予定

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