大区画基盤整備水田の地力窒素マップには下層土情報が必要である


[要約]

非表土扱い工法による大区画基盤整備水田で生じる水稲窒素吸収量の圃場内変異(ムラ)は、生育前半には耕起土層の地力窒素に影響されるが、生育後半および稲作期間全体では下層土地力窒素との相関が高く、局所施肥管理のための地力マップには下層土情報が必要である。

[キーワード] 水稲、窒素施肥、大区画水田、下層土、基盤整備、地力窒素マップ
[担当] 中央農研・北陸総合研究部・総合研究第1チーム
[連絡先] 0255-26-3218
[区分] 関東東海北陸農業・北陸・生産環境、関東東海北陸農業・北陸・総合研究
[分類] 技術・参考 

[背景・ねらい]

基盤整備による水田の大区画化が進行しているが、最近は工事経費を抑制するために非表土扱い工法によるものも多い。したがって、基盤整備後の大区画水田において、地力ムラが大きく水稲の生育ムラの大きい事例が各地で報告されており、地力ムラに対応した局所施肥管理の必要性が指摘されている。水稲の生育収量には従来から耕起土層の地力窒素が重要であるとされているが、一方で下層から供給される窒素の影響も無視できないとされる。そこで、局所施肥管理を必要とする大区画圃場の地力窒素マップの作成に下層土地力情報が必要かどうかを明らかにする。

[成果の内容・特徴]

  1. 収量ムラの大きな大区画水田において、0〜12cmの耕起土層および12〜18cmの下層から土壌を採取し(8m×10mメッシュ)、地力窒素供給量を湿潤土湛水密栓培養法(30℃、4週と10週)で求め、面積あたりに換算後、市販の地理統計学ソフト(GS+:Gamma Design Software社)を使用して測定地点間を内挿し地図化する。
  2. 稲作期間の地力窒素供給量マップと収穫期の水稲地力窒素吸収量マップを比較すると、水稲の地力窒素吸収量ムラ(図1c)は、耕起土層の地力窒素供給量ムラ(図1a)よりも下層の地力窒素供給量ムラ(図1b)に類似したパターンを示す。
  3. 水稲の生育時期別に解析すると、生育前半の水稲地力窒素吸収量は耕起土層の地力窒素と正の相関を示し、下層の地力窒素とは弱い負の相関を示す。一方、生育後半の水稲地力窒素吸収量は耕起土層の地力窒素と負の相関を示し、下層の地力窒素量とは正の相関を示す(図2)。
  4. 以上、生育時期によって水稲地力窒素吸収量のムラに及ぼす耕起土層と下層の地力窒素の影響は異なるが、収量や品質への影響が大きいとされる生育後半および収穫期の窒素吸収量ムラには下層土の地力窒素供給量のムラが強く反映される。したがって、大区画水田の局所施肥管理のために作成される地力窒素マップには下層土の地力窒素情報を含める必要がある。

[成果の活用面・留意点]

  1.  本成果は、非表土扱い工法の大区画基盤整備水田の生育ムラに局所施肥管理で対応する場合の地力マップ作成の参考となる。
  2. 図2における生育前半とは移植期から穂首分化期までを指し、生育後半とは穂首分化期から収穫期までを指す。
  3. 本成果は、耕起土層以下に水稲根が進入し易いとされる湿田タイプの細粒質グライ土水田(基盤整備後3〜5年目)で得られたものである。また下層土の厚さは18cmまでしか考慮していない。下層土由来の窒素供給量を定量的に評価するためには水稲の根域深さを考慮する必要がある。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名 :高品質米の低投入型大規模生産技術のシステム化
予算区分 :地域総合(生育情報)
研究期間 :1998〜2002年度
研究担当者 :鳥山和伸、柴田洋一、佐々木良治、杉本光穂
発表論文等 :鳥山和伸(2001) 土肥誌,72:453−458

目次へ戻る