四倍体シクラメン品種「ビクトリア」の二倍体化とその育種的利用


[要約]
四倍体品種「ビクトリア」は葯培養による二倍体化が可能であり、その二倍体は育種素材として活用できる。

[キーワード]シクラメン、ビクトリア、四倍体、葯培養、二倍体

[担当]埼玉農総研セ・園芸研究所、野菜・花担当
[連絡先]電話 0480-21-1113
[区分]関東東海北陸農業・花き
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 シクラメン品種「ビクトリア」は古くからある品種で、現在でも根強い人気がある。しかし、四倍体(2n=4x=96)であるため遺伝様式が複雑であり、自殖弱勢が起こるため純系選抜が適用できない等の問題がある。これまでに、組織培養により栄養系として固定する方法が行われてきたが、本試験では、葯培養により四倍体「ビクトリア」を二倍体化(2n=2x=48)し、種子系の二倍体ビクトリア型品種を育成するための方法を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 四倍体「ビクトリア」(図1C)から一核期前期の小胞子を含む葯を採取し、NLN+ショ糖(90g/l)+NAA(1mg/l)+グルタチオン(60mg/l) +ジェランガム(3g/l)、pH5.8の培地に置床し、5℃・暗黒で4日間低温処理後、25℃・暗黒で培養する。
2. 葯培養により形成された不定胚をB5+ショ糖(30g/l)+ジェランガム(3g/l)、pH5.8の培地に置床し、25℃・暗黒で培養することにより幼植物体が得られる。幼植物を25℃・蛍光灯照明(12時間明期)の条件に移して緑化した後に順化、栽培することにより開花個体が得られる(図1A)。
3. 染色体観察及びフローサイトメトリーにより葯培養から得られた個体の二倍体化が確認できる(図1B)。
4. 葯培養により二倍体化した個体の中に、図2に示すようなビクトリア型の花色(エッジ:紫、スリップ:白、アイ:紫)の出現が期待されるが、図3のA2とB2に示すような花色(エッジ:紫、スリップ:淡い紫、アイ:紫)の個体が現れる。この個体はビクトリア型の花色を示さないので淘汰されるべきである。しかし、二倍体品種の「ピュアーホワイト」及び「ミニチュアピュアーホワイト」を種子親として交配した場合、F1では表1、図3に示すような花が出現し、期待されるビクトリア型の花色(エッジ:紫、スリップ:白、アイ:紫)も現れる(図3の A3とB6)。
5. F1の中から期待されるビクトリア型の花色(図3の A3とB6)を選抜し、それらの後代から「二倍体ビクトリア型品種」の作出を目指す。

[成果の活用面・留意点]
1. 本試験で開発された葯培養法は「ビクトリア」以外の四倍体品種を二倍体化するときの参考になる。
2. 葯培養により得られた二倍体化個体がビクトリア型の花色を示さない場合でも、その個体は育種素材として利用できる。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:シクラメンの育種試験
予算区分:県単
研究期間:2001〜2008年度
研究担当者:石坂宏
発表論文等:石坂(2003)園学雑.72(別1):376.

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