東京都の土壌およびキュウリにおけるドリン系農薬の残留実態


[要約]
東京都内の農地土壌814検体の10.4%、都内産キュウリ330検体の3.6%からディルドリンを検出した。同一圃場の土壌とキュウリにおける残留値に一定の関係がないことは圃場内の水平分布のばらつきに起因している。また、垂直分布も一様ではない。

[キーワード]キュウリ、ドリン系農薬、土壌残留、水平分布、垂直分布

[担当]東京農試・環境部・機能安全性研究室
[連絡先]電話 042-524-3191
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
  食品衛生法に基づいた2002年の残留農薬検査において、東京都内産のキュウリから基準値を超えるディルドリンおよびエンドリンが検出された。両農薬とも1975年に登録失効していることから、土壌に長期間残留していたものが農作物に移行し、残留したと考えられる。そこで、都内の畑土壌および都内産キュウリにおける残留実態を把握する。

[成果の内容・特徴]
1. 東京都内の農地土壌814検体の85検体(10.4%)からディルドリンが0.01〜2.60ppm、3検体(0.4%)からエンドリンが0.01〜0.12ppm検出された。
2. 都内産のキュウリ330検体のうち、12検体(3.6%)から食品衛生法に定められた基準値(0.02ppm)を超えるディルドリンを検出した。また、2検体(0.6%)から同法に定められた基準値(不検出)を超えるエンドリンを検出した。
3. 上記調査検体中で、同一圃場から採取された土壌とキュウリのディルドリン残留値から算出した吸収率は4〜167%以上であり、キュウリにおけるディルドリンの吸収率は30%とする1970年代の報告例と異なる(表1)。
4. 上記3の原因解明のため、2ヵ所の圃場(各30m×10m)でのディルドリンの水平分布を調査した結果、それぞれ15地点で検出限界(0.01ppm)未満〜0.73ppm(図1a)、18地点で検出限界(0.01ppm)未満〜0.12ppm(図1b)と大きなばらつきが認められる。したがって、一枚の圃場であっても土壌残留値の低い場所から採取されたキュウリからはディルドリンが検出されず、そこからわずかに離れた土壌残留値の高い場所から採取されたキュウリからは残留基準値(0.2ppm)を超えて検出されるという事態が起こりうる。
5. ディルドリンの垂直分布も採取場所によって傾向が異なり、圃場の耕種条件が残留分布に反映している(表2)。すなわち、採取場所No.1は、土壌調査から、過去に深耕履歴がないために、耕うんの深さまでにしか残留を認めず、また、No.2とNo.3は、定期的に深耕されている圃場なので、深所にまで土壌残留している。

[成果の活用面・留意点]
1. ドリン系農薬の作物残留を回避する方法として、作付け前に土壌残留調査をする場合には圃場内の綿密な水平分布調査が必要である。
2. 採取場所No.1タイプの圃場の場合、ディルドリンの残留は土壌表層部に限られていることから、「天地返し」を行うことによって、根系が浅い作物では吸収を回避する可能性がある。しかし、残留ディルドリンの垂直分布の実態は一様ではないこと、およびディルドリン汚染土壌を撹拌するおそれがあることから、「天地返し」を一般的な作物吸収回避策として位置づけることはできない。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:ドリン系農薬残留の実態把握および対策
予算区分:都単
研究期間:2003年度
研究担当者:橋本良子、池田悠里
発表論文等:橋本(2003)第26回農薬残留分析研究会講演要旨集:92-97.

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