ハダニ類の天敵昆虫ヒメハダニカブリケシハネカクシの蛹の効率的な飼育法


[要約]
ハダニ類の土着天敵ヒメハダニカブリケシハネカクシの蛹の保存法に関して、水分調節を施したバーミキュライトやセルロースパウダーを飼育資材とすることで、高い羽化率を得ることができる。

[キーワード]ヒメハダニカブリケシハネカクシ、蛹、増殖技術、飼育資材、ハダニ、天敵

[担当]中央農研・虫害防除部・生物防除研究室
[連絡先]電話 029-838-8846
[区分]共通基盤・病害虫(虫害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
  ヒメハダニカブリケシハネカクシ(以下、ケシハネカクシ)はナミハダニやミカンハダニ等の有力土着天敵であるが、飼育が困難であり、室内実験による詳細な生態解明は殆ど行われていない。そうした室内実験を継続的に実施する上で,ケシハネカクシの簡易飼育技術を開発する必要がある。成虫および幼虫に関しては、ハダニが寄生したクズ葉等を与えることで簡易飼育が可能である。その一方で,蛹の保存が難しく蛹期の生存率が低いという問題がある。本種は土壌中で蛹化するため、蛹の保存には適度な水分を含んだ飼育素材が必要であるが、好適な飼育素材や飼育条件は分かっていない。そこで、飼育素材の種類や飼育素材に加える水分量が蛹の生存率に及ぼす影響を明らかにし、ケシハネカクシの簡易飼育技術の開発に資する。

[成果の内容・特徴]
1. 水分調整された飼育素材が入った飼育容器に、クズ葉片上のナミハダニを餌として飼育した20頭のケシハネカクシ終齢幼虫(25oC、16L8D条件下で孵化から4日間ほど飼育した3齢幼虫)を餌ごと導入する(図1)。その後,25oC、16L8D条件下で平均約11日間飼育することで成虫を得ることが出来る。
2. 導入幼虫数当たりの羽化成虫数の割合で蛹の生存率(以下、羽化率)を評価したところ、水を加えた淡色黒ぼく土や川砂における羽化率は低く(図2AB)、水を加えたセルロースパウダーやバーミキュライトにおける羽化率は高い(図2CD)。ただし、いずれの飼育素材においても、水分を全く加えない場合には羽化は起こらない。
3. セルロースパウダーでは高い羽化率をもたらす好適条件は限られる(水分量30g区)が、バーミキュライトでは水分量によらず高い羽化率が得られる(水分量10〜50g区)。

[成果の活用面・留意点]
1. セルロースパウダーとバーミキュライトの両者とも好適な飼育素材であるが、セルロースパウダー(約1,600円/kg)よりもバーミキュライト(約140円/kg)の方が安価であり、簡易飼育により適している。一方、セルロースパウダーには蛹の発育過程を容易に観察できる利点があり、直接観察が極めて困難な蛹の生態解明に役立つ。
2. 成虫および幼虫に関する簡易飼育技術と組み合わせることで、室内研究のための小規模な簡易飼育を行うことが可能となる。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:ハダニ類の天敵昆虫の増殖技術の開発
課題ID:03-08-03-*-03-03
予算区分:ISA
研究期間:2001〜2003年度
研究担当者:下田武志
発表論文等:下田(2004)日本応用動物昆虫学会誌 第48巻第2号(印刷中)

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