気象変動下においても品質が優れる良食味の水稲早生品種「てんたかく」の育成


[要約]
「てんたかく」は、平坦地向けの早生粳種である。登熟期の高温や日照不足においても品質が安定して高く、気象変動に強い。耐倒伏性に優れ、収量性が高く、また食味は「ハナエチゼン」に優る良食味品種である。

[キーワード]水稲品種、てんたかく、早生、気象変動、高品質、良食味

[担当]富山農技セ・農業試験場・作物課
[連絡先]電話 076-429-2114
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田畑作物
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  近年、猛暑や低温・日照不足などの気象変動が大きく、早生品種や「コシヒカリ」など富山県の主要品種の品質が著しく低下している。また、本県の水稲作付の85%以上が「コシヒカリ」に特化していることも、県産米の品質低下を助長する一要因との指摘もある。そこで、気象変動に強く高品質、かつ良食味であり、「コシヒカリ」との作期分散を行なうことができる富山独自の早生品種「てんたかく」を育成した。

[成果の内容・特徴]
1. 「てんたかく」は、1992年夏に、高品質系統「越南146号」(後の「ハナエチゼン」)を母に、良食味系統である「東北143号」(後の「ひとめぼれ」)を父として人工交配を行い、特に高温条件下での高品質、さらには良食味を重視して選抜を行なってきた品種である。
2. 出穂、成熟期は「ハナエチゼン」より2日程度遅く、「ひとめぼれ」より4日程度早い。「コシヒカリ」と比べ成熟期は13日程度早く、収穫期の作業分散を図ることができる。稈長は「ハナエチゼン」と同等であり、稈質はしなやかで耐倒伏性が高い。穂数は「ハナエチゼン」よりやや多い(表1)。
3. 千粒重はやや小さいが、収量性は「ハナエチゼン」並に高く、玄米品質が安定して良い品種である。特に、成熟期の枯れ上がりが少なく、高温でも基白粒、背白粒が発生しにくいのが特徴である。また食味は、タンパク含量が低く粘りがあり、「ハナエチゼン」より優れる(表1図1)。
4. 「てんたかく」は、登熟期の高昼温処理では、「ハナエチゼン」より腹白粒の発生が少なく、「ひとめぼれ」より乳白粒の発生が少ない(図1)。また、登熟期の高夜温処理では、基白粒、背白粒の発生が少ない(図2)。さらに、低日射条件においても、「てんたかく」は「ハナエチゼン」と比べ乳白粒等の発生が少なく、「ひとめぼれ」よりも青未熟粒の発生が少ない(図3)。
5. いもち病真性抵抗性は「ハナエチゼン」と同じPizを持つと推定され、葉いもち抵抗性は「ハナエチゼン」並の「強」、穂いもち抵抗性は「ハナエチゼン」の「やや強」に対して「強」である。紋枯病は「ハナエチゼン」並の「やや弱」、穂発芽性は「コシヒカリ」と同程度の「やや難」である(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 2003年12月に富山県の奨励品種に採用された。2004年度より早生の基幹品種として県下全域を対象に普及を図る。
2. 基肥量は「ハナエチゼン」並とするが、茎数が取れやすいため、適正な中干しを行なうなど、過剰分げつにならないよう注意する。
3. 耐倒伏性は強いが、過剰な穂肥施用はタンパク含有率を高め食味を低下させるので避ける。
4. 紋枯病には他の早生品種と同様に弱いので、適正な中干しや的確な防除を行なうなど、基本的な発生防止対策を徹底する。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:水稲新品種育成試験、水稲奨励品種決定試験
予算区分:県単
研究期間:1992〜2003年度
研究担当者:山口琢也・蛯谷武志・金田宏・木谷吉則・小島洋一朗・山本良孝・土肥正幸・石橋岳彦・向野尚幸・表野元保・宝田研
発表論文等:種苗法に基づく品種登録出願中
(2002年12月19日登録出願 第15324号、2003年9月8日出願公表)

目次へ戻る