冬期の降水量観測値に対する捕捉損失の補正方式


[要約]
降水量計の捕捉率と風速の関係に、雨雪判別と風速推定法を組み合わせることで、冬期の降水量観測では最大の誤差要因となっている風の影響による捕捉損失を補正する方法を開発した。

[キーワード]冬期,降水量、雪、補正、捕捉損失、雨雪判別、風速

[担当]中央農研・北陸水田利用部・気象資源研究室
[連絡先]電話 025-526-3234
[区分]関東東海北陸農業・北陸・生産環境、共通基盤・農業気象
[分類]科学・普及

[背景・ねらい]
  北日本や本州日本海側では冬期の降水量、特に雪の量が多く、貴重な水資源として水田の用水などに利用される一方、農業施設や作物に対する雪害の原因にもなっており、その量を正確に把握することは、雪利用と雪対策の両面で重要である。ところが降水量計による観測では、風の影響によって雪や雨の一部が降水量計に入らないという捕捉損失が最大の誤差要因となっている。特に雪は、風の影響を受けやすいので、捕捉損失の割合が大きい。そこで、信頼性の高い降水量の値を得るため、捕捉損失の補正法が必要となる。

[成果の内容・特徴]
1. 補正式として、降水量計の捕捉率と風速の関係(平成13年度成果情報)から導いた式1を用いる。式中の係数m[s/m]は,準器との比較観測から求められた測器および降水の固体・液体の別によって異なる係数である(表1)。
2. 補正計算は基本的には1時間を単位として,図1の流れ図のように進める。まず降水の固体・液体を判別し(雨雪判別と呼ぶ)、それに応じたmを選ぶ。つぎに風速の観測値Wから降水量計開口部の風速Uを推定する。これらを式1に与えれば観測値から補正降水量が得られる。
3. 雨雪判別は以下のように行う。気象官署のデータを対象とする場合、3時間ごとの「現在天気」データを用い、さらにその前後各1時間は同様の天気が継続すると考え拡張して適用する。深夜などそれが適用できない時刻は気温による雨雪判別を用いる。
4. 気温による雨雪判別では、降水のうち固体・液体がそれぞれ50%となる気温を判別気温として用いる。気温が0〜5℃の範囲に対する判別の精度は、全国一律に2.2℃を判別気温とした場合でもほぼ80%である。
5. 風速計は降水量計より高い位置に通常設置されている。降水量計開口部の高さの風速は、開けた場所では対数法則から導いた式2を用いて推定する。ただし近くに建物などがある場合は、粗度の値を検討する必要がある。

[成果の活用面・留意点]
1. 必要な情報がそろえば、過去のデータだけでなく観測中のデータも補正できる。
2. 観測値に乗ずる係数となる式1の右辺括弧内の値には、±0.1程度の誤差がある。
3. 冬期以外でも補正計算の方法は同じであるが、係数mの値には注意を要する。
4. 判別気温は対象地点の観測データから求めることもできる。また文献からも得られる。
5. 誤差要因のうち蒸発損失・濡れ損失等は未補正であるが、雪の捕捉損失に較べれば小さい。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:降積雪資源賦存量の評価方式の確立
課題ID:03-11-07-01-02-03
予算区分:交付金
研究期間:2001〜2004年度
研究担当者:横山宏太郎、小南靖弘、川方俊和、大野宏之(農環研)、井上聡(農環研)
発表論文等:横山・大野・小南・井上・川方(2003) 雪氷65:303-316

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