牛舎ベッドの敷料中の大腸菌群数の推移と戻し堆肥の利用


[要約]
良く腐熟した堆肥中での大腸菌群の増殖は、オガクズ中よりも抑えられる。戻し堆肥として牛舎のベッド敷料に使用した場合、敷料中の大腸菌群数はオガクズを使用した場合よりも少なくなり、すでに良質な堆肥生産を行っている農家ではオガクズ購入のコストが抑えられる。

[キーワード]フリーストール牛舎、戻し堆肥、大腸菌群数、家畜ふん尿

[担当]茨城畜セ・環境保全研究室
[連絡先]電話0299-43-3333
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 牛舎内の敷料はオガクズ等の高騰により、種々の代替品が検討されている。また、フリーストール牛舎では、乳房炎の発生事例が多くなることが報告されており衛生状態の悪化が懸念されている。こうしたことから一部の農家では堆肥を敷料として牛舎のベッドや通路に戻し利用することが行われている。そこで、堆肥を敷料として使用した場合の衛生状態を大腸菌群を指標として調査し、オガクズ等の代替敷料としての可能性を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 牛ふん500g(含水率85%、大腸菌群数3.0×103個/g)と敷料(堆肥(含水率37%、大腸菌群数100個/g以下)、オガクズ(含水率12%、大腸菌群数100個/g以下)、110℃風乾堆肥(含水率0%、大腸菌群数100個/g以下))を容器内で混合した試料(含水率60%)を36℃で培養し、大腸菌群数の経時変化を調査した結果、いずれの試験区でも大腸菌群数は1日後に急激に増加する。堆肥区では大腸菌群数が1日後に3.7×107個に増加するものの、オガクズ区、風乾堆肥区に比較して常に低調である。風乾堆肥区は堆肥区より高い大腸菌群数で推移することから、堆肥中の微生物が大腸菌群の増殖を抑制することが推察される(図1)。
2. 畜産センターのフリーストール牛舎のベッド敷料としてオガクズと戻し堆肥、山砂を使った試験では、8日後から大腸菌群数の差が大きくなり、オガクズ区で最大3.6×107個となるのに対し、戻し堆肥区で3.8×105個,山砂区で3.9×105個と低調である。戻し堆肥をベッド敷料に使用した場合、大腸菌群はオガクズに比べて増殖しない(図23)。
3. 水分60%程度の良質な堆肥を生産している農家で、100頭規模の牛舎のベッドに必要となる量の戻し堆肥を乾燥するコストを試算すると、1頭1日当たり約59円となりオガクズを購入したときの1頭1日当たりの費用75円(0.5m3×1500円/m3÷10日=75円)より低くなる(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 堆肥を敷料として戻し利用する場合、衛生的な観点から発酵温度が十分に上がった堆肥(60℃以上が良い)を用いる。
2. 戻し堆肥の敷料利用後に堆肥化する場合には、戻し堆肥の含水率を40%程度にまで下げて後段の堆肥化処理量を抑える必要がある。ただし、戻し堆肥を40%程度に乾燥調製した場合であっても、オガクズ(含水率20%程度)による水分調整の場合に比較して後段の堆肥化処理量は増加する。また戻し堆肥の含水率が30%を下回ると粉塵の発生等ハンドリングに問題が生じる。
3. 戻し堆肥の敷料利用を採用した場合、堆肥の塩類濃度が高くなるため、堆肥の肥料利用に際しては施肥設計の見直しが必要である。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:フリーストール牛舎の戻し堆肥応用試験
予算区分:県単
研究期間:2000〜2002年度
研究担当者:井上雅美、羽成 勤、吉尾卓宏、相沢博美
発表論文等:井上ら(2003)茨城畜セ研報 35:1-6

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