完熟堆肥を連年施用した飼料畑下層における硝酸態窒素濃度の推移


[要約]
4年間、飼料畑に毎年完熟堆肥を原物重量で8t/10a施用し続け、硝酸態窒素の地下浸透状況を継続調査したところ、80cm深の土壌溶液は比較的低濃度で推移するが、硝酸態窒素は作土層下方まで浸透する。

[キーワード]家畜ふん尿、飼料作物、硝酸態窒素、地下浸透

[担当]栃木畜試・畜産技術部・畜産環境研究室
[連絡先]電話028-677-0015
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 近年、畜産経営が大規模化し、自己耕作地への家畜ふん施用量が増加しており、家畜ふん尿の過剰施用による地下水への硝酸態窒素汚染が危惧されている。そこで、完熟堆肥の施用による窒素等の動態を調査し、飼料畑における環境負荷の可能性を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. イタリアンライグラス(冬作)と飼料用トウモロコシ(夏作)の輪作体系において、約2年をかけて十分に腐熟させた当場産堆肥(肉用牛、豚、鶏、オガクズが主原料)を、作毎に2t/10a(年間4t)施用する試験区を慣行区とし、その2倍量(年間8t)を施用する試験区を設け、作期中における土壌溶液中の硝酸態窒素濃度を4年間にわたり継続調査した(表1)。
2. 慣行区、堆肥2倍区ともに作物の生育初期は30cmおよび50cm深の土層における土壌溶液中の硝酸態窒素濃度が上昇する傾向にあり、特に堆肥2倍区は濃度上昇が顕著であった。慣行区は作物の生育後期にかけて30cm深の濃度が低下し、50cm深への浸透も確認されたが、80cm深ではほとんどが5ppm未満で推移した。一方、堆肥2倍区では作物の生育後期でも30cmおよび50cm深における濃度は高い傾向にあり、80cm深でも10ppm前後で推移する時期があった(図1)。
3. 作物の窒素吸収量は、いずれの作物も慣行区より堆肥2倍区が多く、約1.4倍であった(表2)。
作物が吸収した窒素分は、その都度作付け直前に施用した窒素に由来したものとして、作物の窒素利用率を算出した結果、イタリアンライグラスは慣行区が15〜23%、堆肥2倍区が15〜47%であり、飼料用トウモロコシでは慣行区が23〜46%、堆肥2倍区が23〜36%であった。また、全試験期間を通しての窒素吸収率は、慣行区が25.6%、堆肥2倍区が27.1%とほぼ同じであった。
4. 完熟堆肥を連続施用した結果、硝酸態窒素は作土層下方まで浸透することが確認されたが、80cm深における土壌溶液中硝酸態窒素濃度は比較的低濃度で推移した。しかし、年間8t/10aの堆肥施用では80cm深でも10ppmを越える時期があったことから、この施用量は過剰であるといえる。

[成果の活用面・留意点]
1. 土壌中の残存窒素量は年々増加していると考えられるが、作物の生育への影響や地下への溶脱量の把握などについては、さらに長期の試験期間を設けて調査検討する必要がある。
2. 硝酸態窒素の地下浸透量は、施肥肥料の種類や土壌条件、降雨量、作物の窒素吸収量など、様々な要因により変動する。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:家畜ふん尿施用による飼料畑下層への窒素動態調査
予算区分:県単
研究期間:2000〜2004年度
研究担当者:北條 享

目次へ戻る