乳化病菌から単離した新規結晶タンパク質の殺虫活性


[要約]
乳化病菌から単離した遺伝子cry43Aa1は、新規の結晶タンパク質をコードする遺伝子であり、大腸菌を宿主とした発現系を用いて大量発現できる。発現するCry43Aa1タンパク質は、コガネムシ類幼虫に対して強い摂食阻害及び殺虫活性を示す。

[キーワード]乳化病菌、結晶タンパク質、コガネムシ類幼虫、大量発現系

[担当]千葉農総研・生物工学部・微生物工学研究室
[連絡先]電話043-291-9533
[区分]関東東海北陸農業・生物工学
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 乳化病菌セマダラ株は、コガネムシ類幼虫に対して高い殺虫活性を持っているが、感染源となる胞子のうを人工培養することは難しく、本菌を利用した防除剤の開発を妨げている。一方、胞子のう中に含まれる結晶タンパク質は、幼虫に対して摂食阻害及び殺虫活性を持っている。そこで、セマダラ株から殺虫性結晶タンパク質をコードする遺伝子を単離する。単離した遺伝子を用いて、結晶タンパク質の大量発現系を構築し、殺虫性結晶タンパク質を利用した防除剤の開発を目指す。

[成果の内容・特徴]
1. セマダラ株の全DNAライブラリーから、結晶タンパク質特異的抗血清を用い、抗体陽性クローンを選抜した。約17kbの挿入断片を持つクローンについて挿入断片の全塩基配列を決定したところ、2つの完全長の結晶タンパク質遺伝子及び1つの不完全長の結晶タンパク質遺伝子が含まれていた。これらの遺伝子は、BT Crystal Protein Nomenclature Committee(http://www.biols.susx.ac.uk/home/Neil_Crickmore/Bt/index.html)により新規の結晶タンパク質をコードしていると判断され、それぞれcry43Aa1(4,032 bp)、cry43Ba1(3,996 bp)、cry43-likeと命名された。
2. 2種類の完全長の結晶タンパク質遺伝子(cry43Aa1cry43Ba1)をpTrc99Aベクターに挿入し、大腸菌BL21株に導入して得られた発現クローンの懸濁液を、ドウガネブイブイ1齢幼虫に腐葉土とともに食べさせると、cry43Aa1発現クローンのみが幼虫に対して強い摂食阻害及び殺虫活性を示す(図1表1)。
3. 前項のcry43Aa1発現クローンは若齢幼虫には高い殺虫性を示すが、幼虫の齢期が進むと殺虫活性は低下する。しかし、cry43Aa1発現クローンと、セマダラ株の少量の胞子のう(感染に必要な量の1/10)とを混合した懸濁液は、齢期の進んだ幼虫に対しても、それぞれ単独の場合より、殺虫活性や摂食阻害効果が増大する(表2)。
4. cry43Aa1遺伝子をpkk223-3ベクターに挿入し、大腸菌BL21(DE3)株に導入して得られた発現クローンをLB培地で37℃、16時間振とう培養することにより、培養液1 mlあたり100〜200 μgのCry43Aa1タンパク質を発現させることができる。Cry43Aa1タンパク質は、5 μg/腐葉土1 g加えることにより若齢幼虫をほぼ100%死亡させることができる。Cry43Aa1タンパク質の発現量は、SDS-PAGEのバンドの濃さにより推定できる。
5. 前項の発現クローン菌体は、65℃・15分、70℃・10分または75℃・5分の熱処理により完全に死滅するが、Cry43Aa1タンパク質の殺虫活性は保持できる(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 大腸菌を宿主とする発現系を用いて作られる結晶タンパク質は、コガネムシ類幼虫の防除剤として利用可能である。今後、実用化に向け、さらに低コストで安定的な発現クローンの大量培養法及び製剤化の開発を行う必要がある。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:乳化病菌からの殺虫活性遺伝子の単離と大量発現系の構築
予算区分:国補先端技術
研究期間:2002〜2003年度
研究担当者:横山とも子、深見正信、吉井幸子
発表論文等:
1)Yokoyama et al. (2004) J. Invertebr. Pathol. 85:25-32.
2)横山・深見(2004)千葉農総研研究成果集8:1-49.
3)コガネムシ科昆虫の幼虫生育抑制又は殺虫活性を有するポリペプチド及びそれをコードするポリヌクレオチド:特願2002-195583・特開2003-125765

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