牛糞堆肥を連用した飼料イネの湛水条播栽培における適切な減肥量


[要約]
湛水条播栽培した飼料イネ「ホシアオバ」は、牛糞堆肥2t/10aに加えて被覆尿素で窒素8.3kg/10a施用すると、リン酸・カリ無施肥で1.6t/10aの高乾物収量が得られる。牛糞堆肥連用3年目において高収を維持するための、窒素削減量は2kg/10aである。

[キーワード]乾物収量、牛糞堆肥連用、減肥、飼料イネ、湛水直播、被覆尿素

[担当]中央農研・関東東海総合研究部・総合研究第3チーム
[代表連絡先]電話029-838-8817
[区分]関東東海北陸農業・総合研究、関東東海・土壌肥料、共通基盤・総合研究
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 飼料イネ栽培に牛糞堆肥を利用する場合には、その成分特性から、リン酸(P2O5)・カリ(K2O)の施肥が不要となることが期待される。稲わら堆肥を施用して飼料イネ「ホシアオバ」を栽培する場合の窒素施肥量は12kg/10aが適当(平成15年度研究成果情報)とされているが、牛糞堆肥を連用することにより窒素施肥量の削減も期待できる。そこで、低コスト栽培条件である条播による湛水直播栽培(湛水条播栽培)において「ホシアオバ」の安定多収を実現するため、牛糞堆肥の連用開始後3年間の好適施肥法を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 湛水条播栽培した飼料イネ「ホシアオバ」の黄熟期地際刈り乾物重(乾物収量)は、牛糞堆肥2t/10a施用に加えて、被覆尿素を用いた肥効調節型肥料を窒素として8.3kg/10a施用(N8.3kg区)することにより(表1)、牛糞堆肥の連用開始後3年を通して、安定して1.6t/10a以上となるが、牛糞堆肥連用による有意な増収効果は認められない。幼穂形成期に窒素を4kg/10a追肥(N8.3+4kg区)しても、乾物収量は同程度であるので、窒素追肥は不要である(図1)。
2. 牛糞堆肥2tには、可給態のリン酸が29kg程度(肥効率60%と仮定)、カリが43kg程度(肥効率90%と仮定)含まれる。リン酸・カリ無施肥栽培でも、収穫後土壌の交換性カリウム(K)、可給態リン酸含有率は堆肥施用前より高く、これらの含有率は連用年数に伴い上昇する(表2)。そのため、牛糞堆肥を施用する場合、リン酸・カリ肥料は無施用でよい。牛糞堆肥連用条件下の黄熟期収穫物のカリウム含有率は1.1〜1.5%であり、家畜の給与に適した水準である。
3. リン酸・カリ肥料の無施用だけでなく、窒素肥料も施用しないN0kg区の乾物収量は、牛糞堆肥の連用に伴い増加するが、連用3年目でもN8.3kg区の乾物収量には及ばないので、安定多収を実現するには、窒素肥料を施用する必要がある(図1)。
4. 牛糞堆肥連用3年目の作付前土壌の可給態窒素含有率は、連用初年目よりも高いため(表2)、窒素施肥量を6.3kg/10a(N6.3kg区)とした場合でも乾物収量や窒素吸収量は、N8.3kg/10a区と同程度となり、窒素施肥量を2kg/10a削減できる(図1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 中央農研谷和原水田圃場(稲わら堆肥2〜4t/10aを3年連用した細粒灰色低地土)において、5月上旬〜中旬に条播し、黄熟期(9月中旬)に収穫した湛水直播栽培における結果であり、栽培の参考とする場合には気象・土壌条件の違いに留意する。
2. 牛糞堆肥に含まれる成分は水分40%、乾物当たり窒素1.9%(そのうち塩化カリウム抽出性無機態窒素は8.9%)、リン酸3.9%、カリ3.9%程度である。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:温暖地での堆厩肥利用による飼料イネの安定多収栽培技術の開発
課題ID:03-01-06-*-05-05
予算区分:委託プロ(ブラニチ3系)
研究期間:2003〜2005年度
研究担当者:草佳那子、石川哲也、石田元彦、阿部薫(農業環境技術研究所)

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