体細胞クローン牛の発育および繁殖能力


[要約]
体細胞クローン技術によって、黒毛和種雌牛のクローン牛5頭を作出することに成功した。それらについて発育、血液生化学的性状および繁殖能力を調査したところ、正常性が示唆された。

[キーワード]体細胞クローン技術、クローン牛、ウシ

[担当]茨城畜セ・先端技術研究室
[代表連絡先]電話0299-43-3333
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 体細胞クローン技術は、同一遺伝形質を持つ動物を生産できる技術として様々な分野で期待されている。しかし、クローン牛については受胎率が低いことや、受胎後の流産や生後直死の発生頻度が高いことが多く報告されているため、作出における技術的課題や正常性に関する情報の蓄積が必要である。
 そこで、体細胞クローン技術を利用して黒毛和種雌牛のクローン牛作出を試み、その発育状況、血液生化学的性状および繁殖能力の調査を行い、正常性について検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 異なるドナー牛由来の卵丘細胞および耳線維芽細胞をドナー細胞として核移植を行った。融合率および胚盤胞率ともに卵丘細胞の方が高く、有意な差が認められる(表1)。
2. 卵丘細胞由来クローン牛を3頭(うち1頭は147日齢で死亡)、耳線維芽細胞由来クローン牛を2頭作出することに成功した(表2)。C5の生時体重が標準以下である原因が、クローン家畜特有であるかは不明である。
3. クローン胚の保存には、アルミプレートガラス化法が有効である(表2)。
4. 卵丘細胞由来クローン牛3頭の体重および体高の推移は、標準以下ではあるが、ドナー牛と比較した場合、同様に推移している(図1)。
5. 耳線維芽細胞由来クローン牛2頭の体重および体高の推移は、標準以下ではあるが同様に推移している(図2)。
6. 27項目の血液生化学的性状について、作出したクローン牛5頭と対照牛で大きな差は認められない。
7. 卵丘細胞由来クローン牛2頭は、人工授精により受胎した。C2は22.5kgの雌子牛を分娩し、産子は順調に発育していることから、正常な繁殖能力を持つと考えられる。C1は252日目に流産したが、春機発動や乗駕などの発情行動について、C2と大きな差は認められない。

[成果の活用面・留意点]
1. 体細胞クローン牛の良好な発育・繁殖能力が確認されたので、優良な牛を選抜するための検定、特に種雄牛の育種改良の効率化おいて、このクローン技術を活用できると考えられる。
2. クローン牛の低い作出効率の一因として、低受胎率や、受胎後の流産や生後直死などが挙げられる。今回の試験においても、受胎率は低い傾向にあり、また流産も認められた。そのため、低受胎や流産の原因を明らかにし、これらの発生を少なくする必要がある。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:クローン家畜(牛・豚)生産技術利用による優良家畜作出試験
予算区分:県単
研究期間:2000〜2004年度
研究担当者:山口大輔、渡辺晃行、足立憲隆
発表論文等: 戸塚ら(2001)茨城畜セ研報 31:43-49
山口ら(2003)茨城畜セ研報 35:55-60
山口ら(2004)茨城畜セ研報 37:79-84

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