硫酸溶液へのバブリング方式による堆肥舎のアンモニア回収装置


[要約]
中小規模の畜産農家で堆肥舎等の臭気対策に利用できる簡易な脱臭装置。捕集した臭気を硫酸溶液中にバブリングする方式で、アンモニアの除去率は95.5%と高く、回収量は、化学反応の理論値と一致する。イオウ系臭気物質では効果がない。

[キーワード]家畜ふん尿、堆肥舎、アンモニア、薬液脱臭、硫酸、バブリング方式

[担当]岐阜畜研・養豚研究部
[代表連絡先]電話0574-25-2185
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 家畜ふん尿処理施設では高濃度の臭気物質が発生するため、何らかの脱臭対策が必要となる。特に、アンモニアは濃度が高く、悪臭苦情のみならず、酸性雨の原因物質にもなる。
 岐阜県では、臭気対策として水中や汚水処理施設のばっ気槽中に臭気を含む空気を吹き込む方式が普及している。しかし、放流水の水質規制の強化(窒素濃度)や汚水処理施設がない畜産業では採用が困難である。
 そこで、アンモニアガスは酸性溶液に吸収させると容易に脱臭でき、窒素肥料(硫安、リン安)として回収できることに注目し、既存の高価で構造が複雑な工業用硫酸スクラバー装置を改良して、中小規模の畜産農家でも導入できるような簡易な装置を提示する。

[成果の内容・特徴]
1. 本装置の特徴は、脱臭装置本体内のバブリング管(散気管)が硫酸溶液の一定の水深位置に保たれるよう浮子で懸垂され、水位センサー等による液面制御が不要となり、簡易な構造でブロアの送風抵抗を低減しながら確実に作用する仕様である(図1)。
2. 岐阜県畜産研究所養豚研究部の堆肥舎(箱形通気式、16m3)をビニールシートで覆い、堆積上部の空間から臭気をブロアで吸引し(2m3/分)、本装置(タンク容積500L)で脱臭した事例では、いずれの臭気物質も堆肥の発酵ステージにより大きく変動するが、入気中のアンモニアは大幅に低減される(表1)。ただし、イオウ系臭気物質は入気中の濃度は低いものの本装置による脱臭効果は得られない(表1)。
3. 同施設における3回の連続運転試験の事例では、入気中のアンモニア濃度50〜730ppmに対して排気が1〜45ppmとなり、アンモニアの除去率は、1回目が94.5±0.8%、2回目が96.5±1.5%、3回目が95.3±2.2%である。ただし、硫酸がアンモニアを吸収できなくなる中和点に達すると、急激に除去率が低下するので注意が必要である(図2)。なお、中和後の溶液のpHは7.47となり(表2)、供試した78%硫酸60kgが吸収したアンモニアの量は、化学反応式の理論値(13,400g)に近い。
4. 脱臭に必要な施設と維持経費は、繁殖用雌豚30頭規模の養豚農家であれば、2m3の脱臭用タンク1基を設置し(約200万円)、78%硫酸使用量は年間5.7tで、電力と併せて約40万円となる。なお、脱臭廃液量は年間14tと試算される。また、採卵鶏10,000羽規模の養鶏農家であれば、3m3の脱臭用タンク1基(約280万円)を設置し、硫酸使用量9.3t/年、脱臭廃液の量:20t/年となり、養豚の約1.5倍の経費がかかる。

[成果の活用面・留意点]
1. 中小規模の畜産農家において堆肥化施設のアンモニア回収装置として活用できる。
2. 硫酸溶液を使用するので、関連する法令(毒物及び劇物取締法、消防法、労働安全衛生法)への配慮が必要である。また、脱臭廃液は硫酸アンモニウム溶液であり窒素肥料に利用できるが、耕種農家等へ安定して流通するシステムを検討する必要がある。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:低コスト薬液脱臭装置の開発に関する研究
予算区分:県単(共同研究)
研究期間:2004〜2005年度
研究担当者:伊藤 元、田口 裕(東海乳酪株式会社)
発表論文等:伊藤(2005) 平成17年度 岐阜県畜産研究所業績発表会資料:9−12

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