高齢新規就農者のためのバリアフリーイチゴ高設栽培技術


[要約]
バリアフリーイチゴ高設栽培技術は、専用移動用椅子に作業者が座ったまま栽培が可能な栽培法で、ハウス側面のベンチをハウス側面近くに設置すれば、通路幅を1mとしても慣行高設栽培と同じ栽培株数が確保でき、慣行と同等の収量が得られる。

[キーワード]イチゴ、バリアフリー、高設栽培、新規就農者、高齢社会

[担当]三重科技セ・農業研究部・園芸グループ
[連絡先]電話0598-42-6358
[区分]関東東海北陸農業・野菜
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
 三重県では農家の高齢化が進み、農家人口は過去45年間に40%まで減少し、後継者不足が深刻化している。農業後継者や他産業からの新規就農者等を増やすためには、快適で衛生的な農作業環境の整備が必要である。一方、日本の65歳以上の人口割合は19%を超え、更に今後50年間に33%にまで増加すると予想されているが、高齢者が退職後に就労する場はごく限られている。そこで、高齢者の新規就農者を増やすために、作業椅子等に座ったままで農作業ができるバリアフリーイチゴ高設栽培システムを開発する。

[成果の内容・特徴]
1. バリアフリー栽培では、間口5.4mの南北棟ハウスの場合、東端ベンチを直径22mの直管パイプによりハウス東側面より20cm離して設置し、その西側に各通路幅1mに3本のベンチを設置することにより、通路を広げ、慣行と同数の株数を栽培できる(図1)。
2. 通路に敷設した専用レール上への専用移動用椅子の設置により、作業者が座ったまま足で地面を押すことで通路内を移動でき、座位での栽培が可能になる(写真1・左)。
3. 慣行給液装置は、栽培者が自ら給液濃度や時間を設定するが、本装置では給液管理はマニュアルに従って、バリアフリー給液装置の5段階のボタンを選択だけで、生育ステージに適した給液濃度、給液時間に切り替えることができる(写真1・右)。
4. バリアフリー栽培の東端ベンチでは、2条とも西側に果房が伸長するように定植し、さらに東側列(図1のa)の苗には、果房伸長を促進するために、12月上旬と1月上旬に株あたり5mlの5ppmジベレリンを散布する。
5. 収穫開始期のイチゴの生育は、東端ベンチの株(a列、b列共)は他のベンチの株に比べて収穫開始日が1週間程遅れ、ハウス側面近くの低温の影響により、収量がやや低くなるが、バリアフリー栽培全体の収量は慣行栽培と差異が無くなる(図2)。
6. 移動作業に適したベンチ高は、収穫作業時、株元作業時(葉かき等)共に90cmがよく(図3)、作業時間は、収穫、株元作業共に短くなる(データ省略)。作業内容にあわせて作業者の身長に応じて、最適な椅子の高さに調節する。

[成果の活用面・留意点]
1. 農業における新規就農者を確保し、併せて高齢者の退職後の新規就労と生き甲斐の場を提供するための有効な手段として活用できる。
2. 施設の初期投資は、ベンチ、培地、移動用椅子、給液装置含めて240万円/10aである。
3. ハウス間口6mではベンチ5列、7.2mでは6列設置し、ハウス側面に近い2列を側面に寄せて設置し、株の向きを果梗が通路側に伸張するように定植する。
4. 東西棟ハウスの場合は北側のベンチをハウス側面に寄せ、南向きに果房を出させる。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:高齢者、障害者に対応した園芸福祉のためのバリアフリー農作業システムの開発
予算区分 :県単
研究期間 :2003〜2005年度
研究担当者:田中一久、中西幸峰、糀谷斉、新木隆史、松岡敏生
発表論文等:
 「園芸作物栽培用給液装置」(実用新案登録第3117983号)
 「走行型作業椅子及びそれを用いた高設栽培ハウス」(特願2005-311859)

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