牛ふん堆肥に残留する除草剤クロピラリドによる作物の生育障害


[要約]
ホルモン型の除草剤であるクロピラリドが牛ふん堆肥中に残留している場合、トマト栽培における生育障害の原因となることがある。トマト以外でもナス科、マメ科、キク科、セリ科に属する作物はクロピラリドに対して感受性が高いものが多い。

[キーワード]牛ふん堆肥、除草剤、ホルモン様症状、生育障害、クロピラリド、トマト

[担当]長野中信試・畑作栽培
[連絡先]電話0263-52-1148
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
 近年、トマト栽培において原因不明の生育異常が発生する事例が全国的に報告されている。県内のトマト栽培においても、圃場全体に異常生育が発生した。各圃場に共通していたのは、牛ふん堆肥の施用であり、一部では多量施用が見られた。そこで、異常生育が発生した圃場に施用された牛ふん堆肥に残留していると推測された除草剤クロピラリドについて、異常生育の再現、他作物での検討を行い、各作物の感受性と生育障害の特徴を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 異常生育が発生したほ場に施用された牛ふん堆肥を5t/10a以上施用した区、堆肥の水抽出液の潅注区、堆肥の高温殺菌区でミニトマトに生長点の奇形、単為結果などの異常生育が発生する。このことから、異常生育の原因は牛ふん堆肥に含まれる物質によるものと考えられる(データ略)。
2. 大豆、及びとうもろこしに牛ふん堆肥を10t/10a相当量施用した結果、大豆では、主枝の心止まりや、葉の奇形が発生した。しかし、とうもろこしには全く異常が認められず、作用に選択性が認められることから、ホルモン様物質の影響が示唆されるた(データ略)。
3. 国外で広葉雑草の防除に使用されるホルモン型除草剤成分であるクロピラリド (3,6-dichloropyridine-2-carboxylic acid)の堆肥中残留分析を行ったところ、濃度と障害の発生に相関が示された(表1)。
4. ミニトマトにおいてクロピラリドの標準品による再現試験を行うと、現地堆肥による症状と全く同様の症状(生長点の奇形、単為結果)を示す(図1)。また、ミニトマト、大豆、さやえんどうの栽培試験では、何れも1.3μg/kg乾土で異常生育が発生し、濃度が高いほど異常生育が激しくなる(データ略)。
5. トマトの品種により感受性に差がみられる。特に、遺伝的に内生ホルモンを制御している単為結果性品種である「ルネッサンス」は、比較的激しく発生する(表2)。
6. トマトの他に、大豆、さやえんどう、なす、パセリ、セルリー、にんじん、ひまわり、きくが異常生育することから、マメ科、ナス科、キク科、セリ科の作物はクロピラリドに対して感受性が高いものが多い(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 今回の生育異常の原因となった牛ふん堆肥は特定のロットに限られるもので、全ての堆肥に共通することではない。
2. 本情報はポット試験によるもので、圃場での実証試験は行っていない。
3. クロピラリドと同族体であるピクロラムは、クロピラリドと同様の障害を起こす可能性がある。
4. クロピラリドは、国内での登録はなく、海外から輸入されたチモシーなどの牧草類から検出されていることから、輸入粗飼料が汚染の主因であることが示唆される。
5. 本除草剤による障害は、既に米国等で問題になっており、ワシントン州立大学等のウェブサイトで情報の入手が可能である。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:野菜の安定生産試験
予算区分:県単(基礎)
研究期間:2004〜2005年度
研究担当者:佐藤強、矢ノ口幸夫、吉田清志、茂原泉

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