ファージ耐性化したイネ白葉枯病菌を溶菌できる宿主域変異ファージ


[要約]
OP1ファージに耐性化したイネ白葉枯病菌を溶菌できる宿主域変異ファージは、尾部繊維遺伝子の特定領域が重複している。この宿主域変異ファージをOP1感受性菌に感染させると、OP1耐性菌への感染性と遺伝子の重複を同時に失った娘ファージが出現する。

[キーワード]イネ、白葉枯病、バクテリオファージ、ゲノム解析

[担当]中央農研・病害防除部・細菌病害研究室
[連絡先]電話 029-838-8931
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)、共通基盤・病害虫(病害)
[分類]科学・参考

[背景・ねらい]
 バクテリオファージ(以下ファージ)は厳密な宿主特異性をもっていることから、これを利用すれば、生物生態系を攪乱せずに植物細菌病を防除する技術の開発が期待できる。しかし、ファージ耐性菌の出現が実用化の最大の障害となっている。一方で、ファージ耐性菌に対して溶菌活性を示す変異ファージ(宿主域変異体)も出現することが知られており、変異ファージを上手く利用すれば、ファージ耐性菌の出現と蔓延を回避できる。そこで、耐性菌に有効な変異ファージの作出を目的として、宿主特異性に関係する遺伝子とその変異様態を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. イネ白葉枯病菌のOP1ファージ感受性菌H5809株(以下OP1感受性菌)から培養変異によって生じるファージ耐性菌(以下OP1耐性菌)は、そのほとんどが4つの野生型ファージのすべてに耐性となる(表1)。
2. OP1およびOP1h2から培養変異によって作出した、OP1耐性菌に感染できる宿主域変異ファージ(OP1hCおよびOP1h2C)は、4つの野生型ファージに耐性のイネ白葉枯病菌N5874株を溶菌できる(表1)。
3. 宿主域変異ファージの尾部繊維をコードする遺伝子では、遺伝子内の特定領域が重複しており、野生型ファージと異なっている(図1)。
4. 宿主域変異ファージをOP1感受性菌に感染させて生じる娘ファージの中には、OP1耐性菌への感染性を失ったものが出現し、これらでは同時に遺伝子の重複も失っている(図1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 野生型および宿主域変異ファージの尾部繊維遺伝子の配列情報は、DNA Data Bank of Japan (DDBJ)上に公開されている(Acc. No. AB214312-AB214316)。
2. 宿主域変異ファージはファージ耐性菌を溶菌するが、耐性菌に感染できない復帰変異株が出現しやすいため、実際の防除に利用するには感染性を維持する工夫が必要である。
3. OP1hCおよびOP1h2Cに溶菌されないファージ耐性菌も存在する。


[具体的データ]


[その他]
研究課題名:イネ白葉枯病をモデルとした植物病原細菌−ファージ間相互作用の解明
課題ID:03-07-01-*-18-05
予算区分:交付金
研究期間:2003 〜 2005年度
研究担当者:井上康宏、畔上耕児、松浦貴之、小原達二、津下誠治(京都府大)、落合弘和(生物研)、加来久敏(生物研)
発表論文等:Inoue et al. (2006) J. Gen. Plant. Pathol. 72(2):111-118.

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