構造部材のインベントリ化による温室建設の環境負荷の推計


[要約]
低コスト耐候性鉄骨ハウスの建設に関わる環境負荷は、構造部材のインベントリデータを作成することにより推計できる。10a当たりのCO2総排出量は約16.6tであり、うち23%が基礎、70%が骨組材によるものであり、被覆材に由来する割合はわずか1%である。

[キーワード]温室、構造部材、インベントリデータ、環境負荷、LCA

[担当]中央農研・環境影響評価研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8909
[区分]共通基盤・経営、関東東海北陸・経営
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  施設園芸においては、近年、温室の大型化や栽培の周年化の傾向が顕著であり、その環境負荷を推計することが環境保全型農業を実現する上で重要な課題となっている。ところが、温室のライフサイクルアセスメント(LCA)に必要なインベントリデータベースは世界的にも未整備であり、そのデータ整備が強く求められている。そこで、施設園芸用の温室を対象に、構造部材について現状調査と文献資料に基づきインベントリデータを作成し、LCAのインベントリ分析によって温室の建設に係る環境負荷を推計する。

[成果の内容・特徴]
1. 国内で普及している温室は多種多様であるが,インベントリ分析のため構造的な特徴から大きく分類すると表1の5種類になる。環境負荷の推計のモデルとしたハウスは、栃木県でトマト長期栽培に使用されている41aの低コスト耐候性鉄骨ハウスである。
2. インベントリ分析のシステム境界は、構造部材の製造と温室の建設である(図1)。建設時の設計図および積算見積書を用いて構造部材のインベントリ化が可能である。基礎(鉄筋コンクリート)、骨組材(鉄鋼材、アルミ材)、被覆材(プラスチックフィルム、ガラス)等のうち、JIS規格品および数量の把握が可能な部材の種類を選定し、さらにコンクリートや被覆フィルムは可能な限り原材料に分解するという手順をとる。
3. 温室構造部材用インベントリデータベース(CO2、NOx、SOxの排出量原単位)は、日本LCAフォーラム、ecoinvent等の既存のデータを利用することによって作成することができる。構造部材の輸送については、燃料消費量や輸送距離が不明の場合には産業連関表による輸送費用に基づく環境負荷原単位が利用可能である。データベース化は、LCAソフトウェアのSimaProに準拠して実施できる。
4. 構造部材の製造および輸送についてのインベントリ分析の結果は、温室の建設に係る10a当たりのCO2総排出量は約16.6tであり、うち23%が基礎、67%が鉄鋼材、3%がアルミ材、6%が輸送によることを示している。被覆材に由来する割合はわずか1%である。NOx、SOxの排出量はともに基礎と骨組材によるものが大半を占め、輸送による割合も比較的大きい(図2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 本成果は未整備のインベントリデータの作成に当たっての参考となる。
2. アルミ材の総重量は、鉄鋼材に対する単位重量当たり価格比等によって推定している。また、実際の温室に設置されている遮光兼保温用の可動カーテンは、システム境界外と想定している。
3. 暖房機、養液栽培装置、灌水装置等の装備および電力、燃料等の消費エネルギー、並びに廃棄フィルム、廃棄鋼材等のインベントリデータは今後整備を図る必要がある。


[具体的データ]

表1 インベントリデータ作成のための温室のタイプ別分類
図1 インベントリ分析のシステム境界(破線内)
図2 温室(低コスト耐候性鉄骨ハウス)構造部材のインベントリ分析結果 −10a当たり環境負荷物質排出量と内訳−

[その他]
研究課題名:農業経営と物質収支の統合会計システムの開発とデータベースの構築
課題ID:214-a
予算区分:基盤、重点強化
研究期間:2006年度  
研究担当者: 小綿寿志、太田健、佐藤正衛、小野洋、井上荘太朗、林清忠、中島隆博、
森山英樹(農工研)

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