複二倍体シクラメン(Cyclamen persicum×C. purpurascens)の作出と種子稔性


[要約]
二倍体園芸品種(C. persicum 2n=2x=48)と二倍体野生種(C. purpurascens 2n=2x=34)の種間交雑により不稔の雑種(2n=41)が得られる。雑種の減数分裂で非還元小胞子が形成され、雑種の葯培養により非還元小胞子由来の再分化個体が得られる。再分化個体の中から染色体の自然倍加による稔性の複二倍体(2n=4x=82)が得られる。

[キーワード]二倍体園芸品種、二倍体野生種、雑種、複二倍体、葯培養、染色体、稔性

[担当]埼玉農総研・園芸研・野菜花担当
[代表連絡先]電話:0480-21-1113
[区分]関東東海北陸農業・花き
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  シクラメン園芸品種の香りを改良するために、二倍体園芸品種(C. persicum 2n=2x=48)と二倍体野生種(C. purpurascens 2n=2x=34)の種間交雑が有効であり、種間交雑により野生種の香りを持つ雑種(2n=41)が得られる。しかし、その雑種は不稔であるため育種素材として利用できない。そこで、種子繁殖可能な香りシクラメンを育成するために種子稔性のある複二倍体の作出法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 二倍体園芸品種(C. persicum 2n=2x=48)を種子親、二倍体野生種(C. purpurascens 2n=2x=34)を花粉親として、交配後28日目に胚珠に胎座をつけて摘出する。
2. 摘出した胚珠をMS+ショ糖(30g/l)+ジェランガム(3g/l)、pH5.8の培地に置床し、25℃・暗黒で培養することにより両親の染色体の半数の和に当たる2n=41の染色体を持つ雑種が得られる(表1)。
3. 雑種(2n=41)の染色体対合では、二価染色体形成の平均値は低いが、非還元分裂による小胞子が形成され、低率で稔性花粉も形成される。しかし、自家受粉による稔性種子は形成されない(表3)。
4. 雑種(2n=41)から一核期前期の小胞子を含む葯を取り出して、B5+ショ糖(90g/l)+NAA(0.1、1mg/l)または2,4-D(0.1mg/l)+ジェランガム(3g/l)、pH5.8の培地に置床し、5℃・暗黒で4日間処理後、25℃・暗黒で培養することにより非還元小胞子由来の不定胚が得られる(表2)。
5. 不定胚をB5+ショ糖(30g/l)+ジェランガム(3g/l)、pH5.8の培地に置床し、25℃・暗黒で培養することにより2n=41の個体及び染色体の自然倍加による2n=82の複二倍体が得られる(表2)。
6. 二倍体園芸品種(C. persicum 2n=2x=48)と二倍体野生種(C. purpurascens 2n=2x=34)の染色体対合では、二価染色体形成の平均値は高く、花粉、種子ともに稔性がある(表3)。
7. 複二倍体(2n=4x=82) の染色体対合では、二価染色体形成の平均値は高く、高率で稔性花粉を形成し、自家受粉により稔性種子を形成する(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 葯培養により得られた幼植物体はフローサイトメトリーにより倍数性を判定し、早期に複二倍体の選抜を行う。
2. 複二倍体は種子稔性があるため、香りシクラメン育成の中間母本として利用できる。


[具体的データ]

表1 胚珠培養によるCyclamen persicum(2n=2x=48)とC. purpurascens(2n=2x=34)の種間雑種の作出
表2 Cyclamen persicum(2n=2x=48)とC. purpurascens(2n=2x=34)の種間雑種(2n=41)の葯培養による植物体の育成及び植物体の染色体数
表3 Cyclamen persicum (2x)、C. purpurascens(2x)及びそれらの雑種と複二倍体の染色体対合と稔性

[その他]
研究課題名:特産花き品種の育成
予算区分:県単
研究期間:1987〜2006年度
研究担当者:石坂宏、植松盾次郎
発表論文等: Ishizaka, H. and Uematsu, J. (1995) Euphytica 82: 31-37.
Ishizaka, H. (1998) Plant Cell Tissue and Organ Culture 54:21-28.

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