チューリップ花弁における青色発現メカニズム


[要約]
チューリップ品種‘紫水晶’における花底部での青色発現は、花底部特異的な鉄イオンの蓄積による鉄イオンとアントシアニン色素の錯体形成が原因である。

[キーワード]チューリップ、アントシアニン、花色、プロトプラスト、鉄イオン

[担当]富山農技セ・農試・生物工学課
[代表連絡先]電話:076-429-2113
[区分]関東東海北陸農業・花き、生物工学
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  チューリップの花色は、赤、紫、黄、白色など多様性に富んでいるが、青いチューリップは存在しない。しかし、部分的に青色を持つ品種は多数存在しており、いずれも花の花底部内側に限られている。青いチューリップを開発するため、この花底部特異的な青色発現メカニズムを解明する。

[成果の内容・特徴]
1. 品種‘紫水晶’は花全体が紫色で花底部のみ青色を示す。紫色部分と青色部分に由来する着色プロトプラストは、共に同一のアントシアニン色素(delphinidin 3-O-rutinoside)を持ち細胞内濃度は約10 mMである(図1)。
2. 紫色、青色それぞれの細胞内にあるコピグメントは、マンガスリン、ルチン、モウリティニンを主とするフラボノールである。細胞内での含有量は合わせて約20 mM程度であり、ほとんど差はないことからコピグメント効果による青色化ではない(図1)。
3. 微小電極法による細胞の液胞内pHは、紫色細胞がpH5.5±0.1、青色細胞がpH5.6±0.3でありほとんど差は無いことから、青色発現は液胞内のpHの違いによるものではない(図2)。
4. 着色プロトプラストの元素分析では、11元素が検出される。中でも紫色細胞内の鉄イオン濃度が0.4 mMであるのに対し、青色細胞では10 mMで25倍の濃度差が認められる。このことから、アントシアニン色素と鉄イオンの錯体形成が青色化の原因であることが示唆される(図3)。
5. Delphinidin 3-O-rutinoside (Dp)、ルチンおよびFe3+を用いて花色の再現実験を行うと、Dp:ルチン=1mM:2mMで紫色細胞と同じ吸収スペクトルを持つ紫色溶液、Dp:ルチン:Fe3+=1 mM:2 mM:1mMで青色細胞と同じ吸収スペクトルを持つ青色溶液が再現できる。このことから、青色化の原因は鉄イオンの共存であることが証明できる(図4)。

[成果の活用面・留意点]
  チューリップ花弁での青色発現の原因が明らかになることで、今後、原因遺伝子の特定に研究を発展させることができ、青いチューリップの開発に繋がる。


[具体的データ]

図1. 着色プロトプラストにおけるアントシアニンとコピグメントのHPLC分析
図2. 着色プロトプラストにおける液胞内pH 図3. 着色プロトプラストにおける元素分析
図4. 着色プロトプラストおよび花色再現実験による色素溶液の吸収スペクトル

[その他]
研究課題名:分子細胞工学的手法による青いチューリップの開発
予算区分:県単
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者: 荘司和明、桃井千巳、中島範行(富山県大・生工研)、三木直子、吉田久美(名大院・情報科学)
発表論文等:Shoji et al., (2007) Plant Cell Physiol. 48: 243-251.

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