減量散布ができるブームスプレーヤ型静電散布機


[要約]
ブームスプレーヤ型静電散布機は、パルス電源と環状電極を用いて散布粒子を帯電させる散布機である。ブームスプレーヤの慣行散布と比較して、散布量を3割程度削減してもキャベツの側面、葉裏面への薬液付着が優れている。

[キーワード]静電散布、減量散布、ブームスプレーヤ、キャベツ

[担当]静岡農林研・企画経営部・生産システム体系化研究
[代表連絡先]電話:0538-36-1553
[区分]関東東海北陸農業・作業技術
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  露地における農薬散布作業では、散布粒子のうち作物体へ付着するものは一部で、それ以外の粒子は地表へ落下するほか、ほ場外へ流出するなど防除効果に寄与していない。
  そこで、キャベツを対象に、従来の農薬登録による散布方法、散布倍率が適用でき、かつ農薬使用量を削減するために散布量の3割削減を目標として、散布粒子を帯電させ作物体への付着を向上させるブームスプレーヤ型静電散布機を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 開発した静電散布機は、ブームスプレーヤの各ノズル周囲に環状電極を設置しこれにパルス電源から給電して静電散布を行う構造である。ノズルはドリフト抑制のため慣行機と比較して大粒子のものを装着している(図1)。慣行のブームスプレーヤと同等の作業能率で散布作業が可能である。
2. 散布粒子の帯電方式は環状電極による誘導帯電である。電源から供給される低電圧パルス電流を、各電極近辺に設置した昇圧コイルにより高電圧変換(ピーク電圧4.5kV)して、電極に給電する(図2)。電源から直接高電圧を給電する方式に比べ高圧配電線部分が短縮され、電源装置も低電圧でよいので、低コスト化が期待できる。
3. 開発した静電散布機のノズル一頭口を用いた室内散布試験において、結球側面及び外葉裏面相当部位における付着は、無荷電散布と比較して優れている。また模擬作物体をキャベツ栽培ほ場に設置して行った散布試験において、静電散布機の結球側面及び外葉裏面相当部位における付着は、ブームスプレーヤを用いた慣行散布と比較して、30%減量散布でも優れている(図3)。
4. 年3作行ったキャベツ害虫に対する防除試験において、静電散布機による30%減量散布は、ブームスプレーヤの慣行散布と比較して、ほぼ同等の防除効果が得られた(表1)。
5. 散布作業者の農薬被曝量は、静電気の付加により増加する傾向はみられない(データ省略)。

[成果の活用面・留意点]
1. キャベツの防除機として使用が可能である。
2. 帯電装置の電源を切れば通常のブームスプレーヤとして慣行散布が可能である。
3. 対象作物、病害虫、農薬の種類が前記防除試験と異なる場合は、防除効果が異なることが想定されるため、条件毎の効果確認が必要である。
4. 電解質を含む等の導電性が高い薬液を散布する場合は、電極の絶縁破壊により静電散布が実施できないおそれがあるので、通常の散布を行う。現在までに確認したところエマメクチン安息香酸塩乳剤がこれに該当する。


[具体的データ]

図1 ブームスプレーヤ型静電散布機と同ノズル部 図2 静電散布機の帯電機構
図3a(左) 静電散布と無荷電散布の付着性能(室内試験)  /   図3b(右) 静電散布機と慣行ブームスプレーヤの付着性能(ほ場試験)
表1 キャベツ害虫に対する防除効果(補正密度指数1))

[その他]
研究課題名:露地用静電防除作業技術の開発
予算区分:交付金プロ(精密畑作)
研究期間:2003〜2007年度
研究担当者:大村和宏、山根 俊、小野盾男、宮崎昌宏(中央農研)、(株)共立

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