アルミプレートマイクロドロップレット法による体外操作胚のガラス化保存


[要約]
アルミプレートマイクロドロップレット法でガラス化したIVF胚は、緩慢凍結法での凍結と比較して加温後の生存率が有意に高かった。各体外操作胚をガラス化保存後加温したところ、高い生存率が認められた。ストロー内に封入したガラス化牛胚をストロー内加温後移植したところ、正常に分娩した。

[キーワード]ガラス化保存、アルミプレートマイクロドロップレット法、体外操作胚

[担当]茨城畜産セ・先端技術研究室
[代表連絡先]電話:0299-43-3333
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  体外操作胚は従来の凍結法では十分な生存率および受胎率が得られていない。この技術的な問題を解決するため、ガラス化保存の研究開発が進められているが、農家の庭先などでダイレクト移植を行うためには、ガラス化胚のストロー内保存および加温希釈が不可欠である。そこで、使用するガラス化液が極めて微量なアルミプレートを用いたマイクロドロップレット法(MD法)によって体外操作胚をガラス化保存し、加温後の生存率を確認するとともに、ストロー内に封入してストロー内加温後、ダイレクト移植を試みた。

[成果の内容・特徴]
1. 本法は、アルミニウム製のプレートを液体窒素で冷却し、その表面に胚を含んだ約2μlのガラス化液を落下してガラス化する方法である(図1表1)。アルミプレートは消毒でき、液体窒素に直接触れることがないため、胚の取り扱いが衛生的で、低コストなガラス化保存法である。
2. MD法およびプログラムフリーザーを用いたエチレングリコール(EG)による緩慢凍結法で保存したと場由来体外受精(IVF)胚を表1に示す加温階段希釈後、IVD101培地で38.5℃、5%CO2、95%空気の気相条件で24時間培養したところ、MD法で有意に高い生存率が認められた(表2)。なお、胚の生存性については培養後形態的に正常である胚を生存とみなした。
3. 体外操作胚として、バイオプシー胚、核移植胚および生体卵子吸引−体外受精胚(OPU胚)をガラス化保存し、加温階段希釈後IVD101培地で38.5℃、5%CO2、95%空気の気相条件で培養したところ、24時間後の生存率は92.9%、83.3%および100%と高かった(表2)。
4. あらかじめストロー内に融解液を充填凍結し、と場由来IVF胚を含むガラス化MDを封入して、表1に示すストロー内希釈後IVD101培地で24時間培養した時の生存率は58.1%であった。また、ガラス化OPU胚をストロー内希釈(表1)後、定法に従って10頭にダイレクト移植したところ、2頭が受胎し1頭が正常に分娩した(図2)。

[成果の活用面・留意点]
1. アルミプレートを用いたMD法では、体外操作胚の高い生存率が得られる。
2. MD法によるガラス化牛胚のダイレクト移植で正常に子牛が産まれたため、農家庭先での体外操作胚移植に利用できる可能性が示唆された。
3. 階段希釈よりもストロー内希釈の方が加温後の生存率が低いため,ストロー内希釈用融解液中のトレハロース濃度および各体外操作胚での受胎率を検討する必要がある。
4. ガラス化MD形成、ストロー内封入には修練が必要である。


[具体的データ]

図1 MD法の模式図および使用器具 図2 ダイレクト移植により生産された子牛
表1 使用試薬およびガラス化・加温階段希釈・ストロー内希釈方法
表2 緩慢凍結法による凍結胚の融解後の生存率およびガラス化胚の加温後の生存率

[その他]
研究課題名:バイオプシー家畜胚の保存技術の確立
予算区分:県単
研究期間:2005〜2009年度
研究担当者:赤上正貴、山口大輔、足立憲隆
発表論文等:渡辺ら(2005)茨城県畜産センター研究報告、38:59-61
                  鈴木ら(2007)茨城県畜産センター研究報告、40:41-43

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