ガラス化保存したウシ性判別胚のガラス化液ストロー内希釈法


[要約]
胚のガラス化保・加温後の「希釈液」に変更を加え、移植時の加温・希釈操作をストロー内で行えるようにする。従来のガラス化保存法で必要とされていた鏡検下での段階希釈操作を実施しなくとも、加温・希釈後の胚の生存率および受胎率に差は認められない。

[キーワード]ウシ性判別胚、ガラス化保存、ストロー内希釈、加温・希釈方法の簡易化

[担当]栃木酪試・生物工学部
[代表連絡先]電話:0287-36-0230
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  胚の性判別技術の正確性は高く、特に乳用牛では効率的な雌子牛生産等のための実用技術となっている。しかしこの方法では、胚細胞の一部を採取するため、細胞数の減少や胚への物理的ストレスにより、通常の胚に用いる緩慢凍結法では融解後の生存率、移植後の受胎率ともに低下することが知られている。
  一方、性判別等体外操作胚の長期保存にはガラス化保存法が有効との知見はあるものの、ガラス化保存胚の野外での普及を進めるためには実験室で行われている鏡検下の煩雑な段階希釈の簡易化が課題となっている。
  そこで、ガラス化保存法で用いていた希釈液の組成のグリセリンをエチレングリコールに変更し、加温温度、平衡時間に検討を加え「ストロー内加温・希釈」後、その場で直ちに受胚牛に移植できる簡易な手法について、ウシ性判別胚の生存性と受胎率を検討する。

[成果の内容・特徴]
1. 性判別には、体内由来の形態学的品質がA、Bランクの桑実胚〜拡張胚盤胞を用いる。胚(初期胚盤胞以降は栄養膜細胞部)の約10%をマイクロブレードでバイオプシーし、LAMP法またはPCR法で雌雄を判定する。ガラス化保存には、100μMβ‐メルカプトエタノール+20%子牛血清添加TCM199で、38.5℃、5%CO2の条件で3時間の培養後に生存を確認したものを用いる。ガラス化は、胚を50%VSED液(Ishimoriら、1992)で1分間平衡した後、30秒以内で胚を含むVSED液と希釈液を0.25-ml胚移植用ストロー内に充填し、ストローを液体窒素の液面付近で2分間静置した後、液体窒素内に投入して行う。ガラス化保存後の加温・希釈は20℃で実施し、希釈液の融解後にストロー内液を混和する。希釈液混和後20℃の水中で3分間の平衡を実施する。
2. 「段階希釈」:希釈液にグリセリン+ショ糖を用い、鏡検下で段階希釈を行った性判別胚の生存率は、93.3%である(図1及び表1)。
3. 「ストロー内希釈」:希釈液にエチレングリコール+ショ糖を用い、ストロー内希釈を行った性判別胚の生存率は、87.5%である。「段階希釈」との差は認められず、「ストロー内希釈」によっても「段階希釈」と同様な成績である(図1及び表2)。
4. 「移植試験」:実験2、3の生存胚の移植受胎率と移植現場で「ストロー内希釈」後直ちに受胚牛に移植を行った「現場融解」とで受胎率に差は認められない。すべての実験で流産はなく、また産子の性は判定結果とすべて一致した(表3)。

[成果の活用面・留意点]
  本法は、凍結胚の1ステップストロー法と同様に簡便な手技で移植可能なため、今後酪農現場 等での普及が期待される。
  凍結・融解等の条件が異なれば、胚の生存性や受胎率の変動が考えられる。


[具体的データ]

図1 ストロー内カラム構成と各実験の希釈液・ガラス化液の組成及び加温・希釈手順
表1 実験1:「段階希釈」後の性判別胚の生存率 表2 実験2:「ストロー内希釈」後の性判別胚の生存率
表3 実験3:「移植試験」の結果

[その他]
研究課題名:ガラス化保存した性判別胚の簡易な移植法に関する試験
予算区分:県単
研究期間:2004〜2006年度
研究担当者:佐田 竜一、斉藤 栄、佐久間 淳江、雫田 容子、斉藤 光男

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