黒毛和種肥育牛の枝肉形質に対するサイログロブリン遺伝子多型の効果


[要約]
甲状腺ホルモン合成因子であるサイログロブリン遺伝子の5'-UTRに存在する多型(TG5)は黒毛和種肥育牛の脂肪交雑や粗脂肪含量に影響を与える。TG5の遺伝子型がTT型の集団ではCC型の集団に比べBMS No.および胸最長筋の粗脂肪含量が高くなった。

[キーワード]黒毛和種、サイログロブリン遺伝子、脂肪交雑、胸最長筋粗脂肪含量、SNP

[担当]岐阜県畜研・飛騨牛研究部
[代表連絡先]電話:0577-68-2226
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  サイログロブリン(Thyroglobulin, TG) は甲状腺細胞で合成され、細胞の代謝率を高める甲状腺ホルモンの合成、貯蔵およびその前駆物質として重要な役割を担う。ウシでは、TG の5’-UTR領域(TG5)に点突然変異が存在し、異なる遺伝子型間では脂肪交雑や増体に差があることが報告されている。そこで岐阜県内の同一食肉処理場で処理された黒毛和種肥育去勢牛340 頭について、枝肉形質や脂肪酸組成に対するTG5遺伝子多型の効果を調べる。

[成果の内容・特徴]
1. TG5遺伝子型頻度はCC型0.14、CT型0.49、TT型0.37で、対立遺伝子頻度はC対立遺伝子が0.38、T対立遺伝子が0.62であった(表1)。
2. TG5遺伝子型と相関のあった枝肉形質について、TG5遺伝子型間の平均値の差の分散分析を行った結果、CC 型に比べCT 型、TT型ではBMS No. 、光沢、しまり、きめ、単価、および胸最長筋粗脂肪含量が有意に高く、BCS No.は有意に低くなっていた(表3)。バラの厚さはTT型に比べCT 型で有意に高くなっていた(表3)。
3. TG5の遺伝子型はBMS No.に影響するQTLのマーカーとして有効と考えられる。

[成果の活用面・留意点]
1. 黒毛和種での脂肪交雑の高い牛肉生産を目指した種畜造成において、TG5遺伝子型情報を用いた選抜が有効となる可能性がある。
2. 脂肪交雑には数多くの遺伝子が関与しており、これらの遺伝子についても留意する必要がある。
3. 胸最長筋内脂肪の脂肪酸組成はTG5遺伝子型間で有意な差は認められなかった。
4. 性別や家系など遺伝的背景の異なる集団ではTG5遺伝子の多型間の効果は変化する可能性がある。飼料や飼養環境は、栄養面だけでなく遺伝子の発現にも影響すると考えられる。


[具体的データ]

表1 TG5遺伝子型頻度(去勢) 表2 TG5対立遺伝子頻度(去勢)
表3 TG5遺伝子型の枝肉形質への効果(去勢)

[その他]
研究課題名:育種情報の高度化によるおいしい牛肉の開発
予算区分:高度化事業
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者:松橋 珠子、丸山 新、小林 直彦

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