黒毛和種受胚牛への卵胞刺激ホルモン投与による誘起複数黄体の効果


[要約]
黒毛和種受胚牛への低単位卵胞刺激ホルモン投与により、6割の受胚牛に複数黄体が誘起される。複数黄体誘起牛は無処理牛より血液中黄体ホルモン濃度が高く、受胎率も高くなる傾向を示す。また、複数黄体誘起牛の受胎後の妊娠期間、分娩状況は無処理牛と変わらない。

[キーワード]ウシ受精卵移植、卵胞刺激ホルモン、複数黄体、黄体ホルモン

[担当]富山畜試・酪農肉牛課
[代表連絡先]電話:076-469-5921
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  ウシ受精卵移植において、受胎率向上には受胎しやすい受胚牛を選定する技術の開発が有効である。受胚牛の選定基準の1つである黄体の質は血液中の黄体ホルモン濃度と関係があり、不受胎牛では血液中の黄体ホルモン濃度が低いことが示されている。そのため、外部からの黄体ホルモン投与や副黄体誘起による受胎率向上の方法が研究されている。しかし、その効果は確定していないため、血中ホルモン濃度を高める他の方法による検討が必要である。また、多排卵誘起処理により複数の黄体が誘起され、黄体ホルモン濃度と受胎率が高まることが示されているが、処理プログラムが複雑であり、黄体ホルモン濃度上昇の適値は明らかになっていない。
  そこで、卵胞刺激ホルモン投与による簡易な処理プログラムで受胚牛に複数黄体を誘起し、血液中の黄体ホルモン濃度と受胎率の向上効果を検証する。

[成果の内容・特徴]
1. 黒毛和種受胚牛に対し、低単位の卵胞刺激ホルモン(アントリンR、8AU)を投与することにより、6割の牛に複数黄体を誘起できる(図1表1)。
2. 複数黄体を誘起された受胚牛は受精卵移植時期における血液中の黄体ホルモン濃度が高くなる(表2)。
3. 複数黄体を誘起された受胚牛は無処理牛より受胎率が高い傾向にある(表2)。
4. 複数黄体誘起により受胎した牛の妊娠期間や分娩状況は無処理牛と変わらない(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 受胚牛に複数黄体を誘起し、黄体ホルモン濃度を高めることにより、受精卵移植の受胎率を高める可能性が期待できる。
2. 黄体の数により移植対象の受胚牛を選定できるため、移植の可否判断が容易になる。
3. ホルスタイン種や交雑種の受胚牛については卵胞刺激ホルモンの投与量をさらに検討する必要がある。
4. 普及現場で用いるには、複数黄体誘起率をさらに上げる必要がある。


[具体的データ]

図1.複数黄体誘起処理プログラム
表1.ホルモン処理による複数黄体誘起率
表2.受胚牛の血液中黄体ホルモン濃度と受胎率
表3.受胎した受胚牛の妊娠期間と分娩状況

[その他]
研究課題名:牛の簡易発情発見と卵巣機能強化による受胎性向上技術の開発
予算区分:県単
研究期間:2005〜2007年度
研究担当者:四ツ島賢二、清水雅代

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