病害虫複合抵抗性・良食味・高品質な水稲新品種「愛知108号」の育成


[要約]
水稲早生品種「愛知108号」を育成し、奨励品種として採用した。「愛知108号」は、縞葉枯病、穂いもち、ツマグロヨコバイ、セジロウンカに対して抵抗性を有し、「祭り晴」、「あさひの夢」より良食味であり、品質も良好である。

[キーワード]イネ、早生、品種育成、愛知108号、病害虫複合抵抗性

[担当]愛知農総試・作物研究部・作物グループ
[代表連絡先]電話:0561-62-0085
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・水田畑作物
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
  愛知県平たん部の品種別作付割合についてみると、近年、早生品種の作付面積が減少傾向にある。早生の主要品種である「祭り晴」は品質、食味及び収量の年次変動が大きいことから作付面積が大きく減少している。また、「あさひの夢」は食味・収量とも安定しているが、セジロウンカに弱く、多発年には甚大な被害が危惧される。作業の効率化及び気象被害回避のためには極早生と中生の中間作期である早生品種の作付は極めて重要であり、品質が良く、良食味で病害虫複合抵抗性を有する早生品種を育成する。

[成果の内容・特徴]
1. 平成5年に、「あさひの夢」を母とし、「大地の風」を父として人工交配を行い、F3世代で個体選抜を実施し、以降、系統育種法により選抜固定を進めた。平成13年、F9世代で「愛知108号」の系統名を付与し、奨励品種決定調査試験に供試した結果、本県平たん地域への適応性が高く、有望と判断した。
2. 出穂期、成熟期は「あさひの夢」、「祭り晴」よりやや遅く、温暖地東部の熟期区分では“中生の晩”に属する(表1)。
3. 稈長は「あさひの夢」、「祭り晴」よりわずかに長く、穂長は「あさひの夢」と早植栽培ではほぼ同等で、「祭り晴」よりわずかに短い。穂数は「あさひの夢」とほぼ同等で、「祭り晴」よりやや多い。草型は「あさひの夢」、「祭り晴」と同じ“偏穂重型”に属する(表1)。
4. 葉いもちほ場抵抗性は“中”、穂いもちほ場抵抗性は“強”である。縞葉枯病は、抵抗性遺伝子Stvb-i を持ち、“抵抗性”である。白葉枯病抵抗性は「あさひの夢」と同じ“中”で、「祭り晴」より強い。「あさひの夢」、「祭り晴」が持たないツマグロヨコバイ抵抗性を持つ。また、「あさひの夢」が持たないセジロウンカ抵抗性を有する(表1図1)。
5. 収量は「あさひの夢」とほぼ同等で、「祭り晴」より多収である(表1)。
6. 玄米千粒重は「あさひの夢」とほぼ同じで、「祭り晴」よりやや重い。玄米の外観品質は「あさひの夢」と同等以上で、「祭り晴」より優れる(表1)。
7. 食味は「あさひの夢」、「祭り晴」より味、粘りで勝り、良食味である(表2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 適応地帯は、温暖地平たん部である。また、縞葉枯病、穂いもち、ツマグロヨコバイ、セジロウンカに抵抗性を有し同病害虫発生地域に適する。
2. 愛知県における作型は、早植栽培(5月中旬〜5月下旬)〜普通期栽培(6月上中旬)が適する。
3. 強稈で耐倒伏性は強であるが、良質・良食味生産のために多肥栽培は避け、適期刈りに努める。


[具体的データ]

表1 「愛知108号」の特性概要
図1 すくい取りによるセジロウンカ捕獲状況 表2 食味特性

[その他]
研究課題名:良食味・病害虫複合抵抗性水稲品種の育成
予算区分:県単
研究期間:1993〜2007年度
研究担当者:工藤悟、中村充、藤井潔、辻孝子、濱田千裕、杉浦直樹、坂紀邦、
                  中嶋泰則、加藤恭宏、遠山孝通、船生岳人、澤田恭彦、井澤敏彦、
                  鈴木敏夫、釋一郎、井上正勝、朱宮昭男、小島元

目次へ戻る