ダイズ硬実の種皮表面微細構造の特徴と吸水性の回復処理


[要約]
ダイズ「タチナガハ」に発生した硬実(石豆)は、種皮表面の微細な孔隙構造が極端に少ないため、正常粒に比べて吸水性が劣る。硬実種皮表面に深さ20マイクロメートル程度のキズを1平方ミリメートルあたり約10個形成すると、吸水性が回復する。

[キーワード]ダイズ、石豆、種皮微細構造、孔隙、吸水性

[担当]中央農研・土壌作物分析診断手法高度化研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8481
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料、作物
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
  ダイズの硬実(石豆)は、品質指標上、裂皮粒やシワ粒と同じ障害粒に分類される。硬実の問題は、水に長時間浸漬しても吸水しないにもかかわらず、吸水前の外観(目視)では正常粒と区別できないことにある。特に納豆や煮豆の加工で、硬実は吸水工程で十分に吸水せず、小石のように硬いままなので食用に適さず、問題となっている。また、吸水させてはじめて硬実であることが確認可能となるため、他の障害粒のように事前の機械的な選別除去が困難である。本成果情報では、硬実混入率が約1.5%(新鮮重)であった納豆用原料の形態学的調査に基づき、種皮表面の微細構造変化と「硬実化」の関連性、ならびに硬実に吸水性を回復させる方法を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. タチナガハ(平成17年埼玉県産納豆用原料)で発生が確認された硬実では、正常粒と比較して大きいなど、種子形状に有意な差異がみられる(表1)。
2. 種皮表面の微細構造は、レーザ走査型三次元微細形状計測顕微鏡を用いることにより、乾燥や組織固定などの前処理をしなくても、容易に観察・計測できる。これを利用した観察結果では、吸水性のある(正常な)タチナガハの種皮表面には微細な孔隙構造がみられるのに対して、硬実には非常に少ない(図1)。
3. 微細形状計測結果から、直径と表面陥入深さが10マイクロメートル以上ある微細孔隙を抽出して計数することにより、硬実と正常粒の差異について定量的に比較できる。正常粒の微細孔隙数は平均44.8個に対して硬実では3.2個であり、硬実は種皮表面の微細孔隙量が少ないことを特徴としている(表1)。
4. 供試した硬実は、浸漬・乾燥の繰り返しで種皮に亀裂ができると吸水性が回復し、吸水曲線の傾きも正常粒と変わらない(図2)。
5. 市販の粗研用砥石上で種子を軽く押さえて転がすと(図3)、硬実表面全体に、深さ約20マイクロメートル(種皮厚の約5分の1)、長さ約100マイクロメートルの微小なキズを、1平方ミリメートルあたり約10個形成できる。この処理により、浸漬1時間後の吸水量は正常粒の約3分の1まで回復する。

[成果の活用面・留意点]
1. 吸水性回復方法はタチナガハ以外の品種にも適用可能であり、一般的な硬実発生への対処方法として、「検出して選別除去する」のではなく、「正常な種子に戻す」手法として活用できる。機械的にキズをつける手法は特許申請中である。
2. 砥石による吸水性回復処理を施す場合には、種子への強い圧迫や裂皮の形成を避け、胚・胚乳への機械的ダメージを最小限に止めることが必要である。


[具体的データ]

表1 正常粒と硬実の形態測定結果の比較 図2 正常粒と硬実の比吸水量経時変化
図1 正常粒と硬実の種皮表面微細構造(凹凸像) 図3 機器による吸水性回復処理方法

[その他]
研究課題名:ナノテクノロジーを利用した作物生理計測・制御技術の開発
課題ID:521-a
予算区分:基盤
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者:乙部和紀、吉岡邦明(筑波大・日東食品(株))
発表論文等:
1)乙部・吉岡(2008)日本作物学会紀事77(1):69-77

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