土壌腐植水準維持と養分供給に基づく家畜ふん堆肥受容量分布算定ツール


[要約]
農地による家畜ふん堆肥の受容量の地域分布は、畑土壌の腐植を一定水準に維持する視点からは、土壌特性等の区分毎の施用量と当該区分の土壌の地域分布から算定できる。また、適正施肥の視点からは、堆肥の肥効等に基づく主要作物毎の施用量と作付面積から算定できる。

[キーワード]堆肥施用量、土壌腐植、肥効、地域分布、データベース、環境保全

[担当]中央農研・資源循環・溶脱低減研究チーム、土壌作物分析診断手法高度化研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8826
[区分]共通基盤・土壌肥料、畜産草地、関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術及び行政・参考

[背景・ねらい]
  土づくりの推進と環境に配慮した適切な施肥の実施が「農業環境規範」の実践等において求められており、国内に偏在する家畜ふん堆肥の効率的・効果的な利用によって双方を推進することが重要となっている。そこで、土づくりと適正施肥の各々の視点から農地による家畜ふん堆肥の受容量を明らかにし、その地域分布を算定するための手法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 土づくりの視点からは、畑土壌の腐植を一定水準に維持するための堆肥の受容量を求めることとし、非黒ボク土では地力増進基本指針における改善目標である腐植含量(全炭素で1.74%)を5年連用で達成または維持できる堆肥施用量を、また、元々の腐植含量が高い黒ボク土では腐植含量が低下しない堆肥施用量を、土壌環境基礎調査事業の有機物連用試験データを解析することにより求めた。この施用量は、土壌温度、土壌の種類、土性、当初の全炭素含有量によって異なる(表1)。
2. 表1の結果と、地力保全調査事業のデータから得られる畑土壌の種類と土性、全炭素含量の地理的分布を利用し、畑土壌の腐植水準維持のための堆肥受容量を市町村毎に算定できる(図2)。
3. 適正施肥の視点からは、(1)堆肥の施用基準に準じて施用する場合、(2)施肥基準と肥料成分(窒素、リン酸、カリ)の代替率・肥効率に基づき施用する場合、(3)窒素収支に基づき施用する場合の各々について家畜ふん堆肥の受容量を求めることとし、これに必要なデータベースを都道府県の施肥基準や農林水産統計データなどから構築した。これを用いれば、各々の場合の堆肥施用量を作物毎に算定でき、その作付面積を乗じることにより家畜ふん堆肥の受容量を地域毎に算定できる(図1図2)。
4. 畑土壌の腐植水準維持のための堆肥施用量は、非黒ボク土では10〜60 t/ha/年、黒ボク土では0〜30 t/ha/年であり、肥料成分の代替率・肥効率に基づき施用する場合の堆肥施用量2〜27 t/ha/年(基肥窒素の50%を乳用牛ふん堆肥で代替する場合について、図1のワークシートを用いて試算)に比べて高レベルとなり、土壌腐植水準の維持を重視した堆肥施用によっては養分過剰をもたらす場合があることを示す。

[成果の活用面・留意点]
1. 本成果は、堆肥の需給に見合う地域毎の利活用計画の策定に向けて(財)畜産環境整備機構の「家畜排せつ物利活用方策評価検討システム構築事業」(H17〜H 19)において開発中の「家畜ふん堆肥のマテリアルフロー分析モデル」で堆肥受容量の地域分布情報として用いられる。
2. データベースには作物毎の施肥基準と堆肥の施用基準、堆肥の成分含有量と代替率、肥効率等、試算に必要なパラメーターのデフォルト値が設定されているが、これらのパラメータは変更可能で、地域毎の条件に即した試算が可能である。
3. 黒ボク土の畑土壌については地力増進基本指針において腐植含量の改善目標値が設定されていないため、元々の腐植含量を維持できる堆肥施用量を暫定値として用いた。


[具体的データ]

表1 畑土壌の腐植を一定水準に維持するための堆肥施用量推定表(年平均土壌温度:15 〜 22 ℃)
図1 適正施肥の視点からみた家畜ふん堆肥の受容量分布の計算ワークシートの出力例
図2 家畜ふん堆肥受容量の地域分布

[その他]
研究課題名:有機性資源の農地還元促進と窒素溶脱低減を中心にした農業生産活動規範の推進のための土壌管理技術の開発
課題ID:214-q
予算区分:委託(家畜排せつ物利活用)
研究期間:2005〜2007年度
研究担当者:金澤健二、太田健、草場敬、渕山律子、木村武

目次へ戻る