日本新記録となる昆虫病原性線虫Steinernema abbasi の識別法と殺虫特性


[要約]
オマーン、台湾などの亜熱帯・熱帯地域からの分布が知られているSteinernema abbasi の日本における分布を初めて確認した。本種は感染態幼虫の頭部の形態から他の日本産本属種から容易に識別でき、カブラヤガ終齢幼虫に対して25〜30℃で高い殺虫活性を示す。

[キーワード]昆虫病原性線虫、Steinernema abbasi 、識別法、カブラヤガ、殺虫特性、高温環境

[担当]中央農研・病害虫検出同定法研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8839
[区分]共通基盤・病害虫(虫害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  昆虫病原性線虫は農業害虫の天敵として有望視されており、世界各地で探索収集が行われている。日本では1988年のSteinernema kushidai の発見以来、10種以上の本属種が報告されている。そのほとんどは25℃以上でチョウ目幼虫に対する殺虫活性が低下するため、高温環境となる季節や施設内で利用できる種のスクリーニングを目的として、沖縄県から本州太平洋沿岸部の温暖な地域で本属線虫の探索を行っていた。2005年、それまで本属の記録のなかった西表島から本属に属する線虫が検出された。本線虫種は形態およびRFLPパターンからS. abbasi であると同定された。そこで本成果情報では、本種の天敵線虫としての利用を促進するための基礎的知見として、その形態による識別法および土壌性のチョウ目害虫であるカブラヤガ(Agrotis segetum )終齢幼虫に対する殺虫活性を示す。

[成果の内容・特徴]
1. オマーン、インド、台湾などの亜熱帯・熱帯地域から知られているSteinernema abbasi を、日本において初めて検出した。検出地は亜熱帯地域の西表島の海岸部の低木林林縁部である。
2. 本種は感染態幼虫期に頭部に突起を持つこと(図1A、B)から、日本産Steinernema 属の他種から容易に区別できる。感染態幼虫の計測値、第一世代オスの尾端部に突起がないこと(図1C)および第一世代メスの陰門開口部および尾端部に微突起を有すること(図1D、E)等の形状の組み合わせにより、他の本属に属す頭部に突起を持つ種(bicornutum 群)から識別できる(表1)。
3. 本種はカブラヤガ終齢幼虫に対し、25℃および30℃で高い殺虫活性を示し、15℃では殺虫活性を示さない。30℃および35℃では、天敵線虫製剤として市販されているS. carpocapsae に優る殺虫活性を示す(図2)。

[成果の活用面・留意点]
1. 日本産Steinernema abbasi を生物的防除に利用するための基盤的知見となる。本種は亜熱帯地域の海岸部の低木林林縁部から検出され,実験により高温域で市販製剤に優る高い殺虫活性を示すことが確認されたことから、施設内や夏季の高温環境での利用が期待できる。


[具体的データ]

図1 Steinernema abbasiの形態的特徴
表1 Steinernema属bicornutum群の形態比較
図2 Steinernema abbasiと輸入線虫製剤のカブラヤガ老齢幼虫に対する殺虫活性と温度

[その他]
研究課題名:病害虫の侵入・定着・まん延を阻止するための高精度検出・同定法の開発
課題ID:521-b
予算区分:基盤研究,委託プロ(生物機能)
研究期間:2005〜2007年度
研究担当者:吉田睦浩
発表論文等:Yoshida (2007) Jpn. J. Nematol. 37(2): 51-61.

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