九州でキクを加害するクマモトネグサレセンチュウ(新種)の識別


[要約]
新種のクマモトネグサレセンチュウ(Pratylenchus kumamotoensis Mizukubo et al.)は、口針長が14〜15 μm、V値が約76〜77%、食道腺葉が背方で腸に重なる個体の出現頻度が高いなどの特徴により、九州でキクを加害する他のネグサレセンチュウから区別できる。

[キーワード]キク、ネグサレセンチュウ、同定、診断、新種

[担当]中央農研・病害虫検出同定法研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8839
[区分]共通基盤・病害虫(虫害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(虫害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
  ネグサレセンチュウ属(Pratylenchus )は重要な農作物加害種を含む線虫群である。本属は2000年時点で89種に整理され、日本には20数種が分布する。
  本属の種は植物根の皮層組織内を移動して食害し、一般に褐色の病斑をつくる。病斑が拡大すると根が脱落して根系が短くなり、地上部の矮化、葉の小型化、黄化、落葉などの症状があらわれる。国内のキクに被害をもたらす主要種はキタネグサレセンチュウ(P. penetrans (Cobb))であるが、1992年にはニセミナミネグサレセンチュウ(P. pseudocoffeae Mizukubo)が宮崎県(キク)と長崎県(ヨモギ)から記載された。一方、これらに形態が一致しないネグサレセンチュウがヨモギ(水久保、1996)やキク(平成16年度九州沖縄農業研究成果情報20号)に発生し、被害も報告されていた(平成17年度九州沖縄農業研究成果情報21号)が、種名がなかった。近年も、宮崎県、熊本県、鹿児島県のキク栽培圃場から散発的ではあるが広域にこの未記載種が検出されている。そこで、近年の標本に基づき新種記載された本種と近似種の識別点を示す。

[成果の内容・特徴]
1.   キクを加害するネグサレセンチュウの個体群をPratylenchus kumamotoensis の学名で新種記載した。初検出地にちなみ和名をクマモトネグサレセンチュウとした。
2.   この新種は、唇部に2または3体環を持ち、受精嚢の輪郭は楕円または長円形であり、後部子宮枝が長い(図1)。
3.   通常ネグサレセンチュウ属の食道腺葉は腹方で腸に重なる(図2A)が、この新種では食道腺葉が背方(図2C)や側方(図2B)から腸に重なる個体の出現頻度が著しく高い(頻度55〜90%)。
4.   この新種は口針長が14〜15μm、V値が76〜77%、尾端のクチクラの厚さが2μm以下であるなどの計量的形質状態を示す(表1)。
5.   この新種は、上記2、3、4の形質状態の相違によりキタネグサレセンチュウから区別できる。
6.   この新種はミナミネグサレセンチュウ(P. coffeae )、ニセミナミネグサレセンチュウ(P. pseudocoffeae )、チャネグサレセンチュウ(P. loosi )、P. jaehni (海外種、日本未発生)および Apratylenchoides homoglans (海外種、日本未発生)に似ているが、上記3および4に記載した形状の相違によりこれらから区別できる。

[成果の活用面・留意点]
1. この情報は、キクを加害するネグサレセンチュウの診断に活用できる。
2. 食道腺が腸に背方から重なる特徴は、この線虫の最も重要な診断ポイントであるが、個体群によって出現頻度が大きく異なるので、20個体程度を調査する必要がある。
3. タイプ個体群の一部はMAFF No. 108275として、ジーンバンクに登録されている。


[具体的データ]

図1.クマモトネグサレセンチュウの主要形態図
図2.クマモトネグサレセンチュウにみられる食道腺葉の重なりの変異
表1.クマモトネグサレセンチュウと既知種の雌成虫計測値等の比較(数値は平均値の個体群間レンジ)

[その他]
研究課題名:病害虫の侵入・定着・まん延を阻止するための高精度検出・同定法の開発
課題ID:521-b
予算区分:基盤研究費、ジーンバンク
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者:水久保隆之、上杉謙太(九州沖縄農研)
発表論文等:Mizukubo T. et al. (2007) Jpn. J. Nematol., 37 (2): 63-74.

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