千葉県全域におけるイノシシの生息適合度予測地図


[要約]
行政に報告されたイノシシ捕獲地点と環境要因の関係から地域における生息確率の予測モデルを構築して、千葉県全域のイノシシ生息適合度予測地図を作成する。

[キーワード]鳥獣害、野生動物、イノシシ、GIS、生息適合度予測

[担当]中央農研・鳥獣害研究サブチーム、千葉県鳥獣害対策研究プロ農業部会(千葉農総研)
[代表連絡先]電話:029-838-8925
[区分]共通基盤・病害虫(虫害)、関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(鳥獣害)
[分類]行政・参考

[背景・ねらい]
  近年、野生動物による農作物被害が深刻化しており、特にイノシシ被害が増加している。県全域など、広域におけるイノシシの分布および相対的な生息密度を予測できれば、行政による被害対策に活用できる。そこで、捕獲報告等の資料を元に、植生・土地利用等の環境要因からイノシシの潜在的な生息適合度を予測する地図の作成手法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 生息確率の予測に用いるデータは、千葉県内で2002(H14)〜2006(H18)年に報告されたイノシシの有害捕獲報告資料から取得した捕獲地点3943地点である。これを約1kmのメッシュ単位で在・不在データとして集計する。環境要因としては環境省の現存植生図、国土地理院の標高、道路、総務省の人口等の資料を用いる。
2. 千葉県では現在分布が拡大中であり、分布域の外側では生息適地であってもイノシシが生息しない可能性があるため、捕獲地点の最外廓を結んだ地域に限定して、捕獲の有無を目的変数、環境要因群を説明変数としたロジスティック回帰による一般化線形モデルを構築する。環境要因については、周辺環境を考慮するため各メッシュの周囲に0〜2000mの4種類のバッファーを発生させて計測した4種類のモデルを比較する(表1)。
3. 千葉県においては、モデルの汎用性を考慮しメッシュ周囲500mの「森林率」と「標高差」、「森林率と採餌(に利用できる)環境率の積」の3変数を用いた式を採用する(表1)。3変数はいずれもイノシシの在・不在と正の相関がある。採餌環境は、水田、畑地、草地、果樹園、竹林の5凡例と定義する。
4. 構築したモデルを用いた、千葉県全域におけるイノシシの生息適合度予測地図を図1に示す。モデルが予測する変量は正確には「1kmメッシュ内にイノシシの捕獲地点が1点以上含まれる確率」だが、ここでは潜在的な生息適合度と読み替えて地図を作成する。

[成果の活用面・留意点]
1. 予測モデルの構築に使用した環境情報はいずれも日本全国で整備が行われている資料であり、無償で利用できる(一部利用許諾の承認を要する)。他の都道府県においても、捕獲地点等、生息確認地点に関するデータがあれば同様の予測地図を作成することが可能である。千葉県で構築した予測モデルを他の地域に直接適用することも技術的には可能だが、結果の妥当性は現時点では不明である。
2. 本予測モデルは、捕獲記録の有無からイノシシの生息に適した環境を解析して生息の可能性を概略的に予測するものであり、潜在的な生息適地の抽出に利用できると考えられる。千葉県においては房総半島南部から被害が発生して現在も拡大中であり、図1で生息適合度が高く示されていても捕獲記録のない地域が半島北部を中心に存在する。このような地域は、将来被害が拡大する可能性があり、被害対策の必要性が高い地域であると考えることができる。
3. 生息適合度と被害発生状況の関連を分析し被害予測手法に発展させる事が可能である。


[具体的データ]

表1 バッファサイズ毎の、AICを基準とする当てはまりが良い上位3モデル。+は正、-は負の要因としてモデルに採用されたことを示す。 最適モデルのロジスティック回帰式
図1 千葉県全域におけるイノシシにとっての潜在的な生息適合度の分布予測地図

[その他]
研究課題名:GISを活用した野生動物の生息密度予測と被害発生予察手法の開発(中央農研)
                  農林作物の野生鳥獣被害軽減化技術の開発(千葉県)
課題ID:421-c
予算区分:基盤、高度化営農管理(2007〜2009年度)
研究期間:2006〜2007年度
研究担当者:百瀬浩、斎藤昌幸、植松清次、吉井幸子、橋本信一(千葉県自然
                  保護課)、宮川治郎(〃)、仲谷淳、山口恭弘、吉田保志子

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