秋播性を有する早生で収量の多い通常アミロース含量小麦新品種候補「利根3号」


[要約]
「利根3号」は、秋播性程度Wの早生、短稈で倒伏に強く多収であり、赤かび病には“中”で、うどんこ病、赤さび病及び小麦縞萎縮病には“強”でありる。農林61号より製粉歩留及びミリングスコアが高く製粉性に優れる通常アミロース含量である。

[キーワード]秋播性、早生、多収、アミロース含量

[担当]群馬県農技セ・環境作物部・普通作物第一係・小麦育種指定試験地
[代表連絡先]電話:027-269-9125
[区分]作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
関東東海地域は、1944年に育成された「農林61号」が主要品種として作付けされている。しかし、「農林61号」に対しては、生産者は倒伏し易く栽培し難いことに加えて収量性が良くないこと、また、需要者は作柄が安定せず契約数量が未達なこととあわせて加工適性等の問題を指摘している。このことから、広域適応性のある早生で多収な通常アミロース含量の品種を育成する。

[成果の内容・特徴]
「利根3号」は、1993年度(1994年4月)に早生、多収、加工適性の向上を育種目標として、母親:「東山25号(後:しゅんよう)」に早生系統の父親:「西海168号(後:きぬいろは)」の雑種1世代を母親として、うどんこ病等の諸病害に強い早生多収品種の父親:「ニシカゼコムギ」として人工交配を行い、雑種2世代から5世代は集団栽培とし、1999年度に雑種第6世代で穂別系統選抜を行い、2000年度からは派生系統育種法により選抜・固定を図り、雑種第12世代の系統群を低温貯蔵で保存し、2008年度の世代は雑種第14世代である。
 「農林61号」と比較して次のような特徴がある。

1. 播性程度はWで、出穂期・成熟期はともに3〜4日早い(表1)。
2. 褐ふで稈長は10cm程度短く、穂長は同程度、穂数は多い(表1)。
3. 耐倒伏性は強く、収量は多収である(表1図1
4. 千粒重はやや大、容積重は同程度である(表1)。
5. うどんこ病・コムギ縞萎縮病は“強”、赤かび病は“中”である(表2)。
6. 穂発芽性は“難”である(表1)。
7. 製粉性は製粉歩留・ミリングスコアで優れる(表1)。
8. アミロース含量・アミログラム特性は同程度である(表1)。
9. うどん官能評価は、めん色でやや優れるが食感は同程度である(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 温暖地に適する通常アミロース含量の小麦であり群馬県、埼玉県、茨城県、栃木県、において普及予定である。
2. 茎数を確保し易いため過繁茂にならないよう地域にあった適期播種、適正播種量に努める。
3. 粗タンパク質含量を確保するため、生育に応じた追肥を実施する。
4. 赤かび病抵抗性が“中”であるため、適切な防除に努める。
5. 需要者による品質評価を受けつつ作付推進を図る。

[具体的データ]
表1 試験地および有望県における特性表
表2 育成地における栽培および諸病害特性
表3 うどん官能評価結果  図1 各試験地における収量変動

[その他]
研究課題名:温暖地東部の二毛作地帯向け早生、高品質、諸病害抵抗性の小麦品種の育成
予算区分:国庫 小麦育種指定試験
研究期間:2006〜2010年
研究担当者:高橋利和 大澤実 折茂佐重樹 成塚彰久 齋藤幸雄 菅谷隆幸
発表論文等:品種登録出願(2008年12月)、農林認定(2009年3月予定)

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