加熱後褐変が極めて小さく精麦品質の優れる二条大麦新品種「とちのいぶき」


[要約]
二条大麦新品種「とちのいぶき」は早生で整粒歩合が高く多収である。オオムギ縞萎縮ウイルス全系統に抵抗性である。プロアントシアニジンフリー遺伝子ant28を有し、ポリフェノール含量が低く、炊飯麦の色相の変化が小さく加熱後褐変が極めて小さい。

[キーワード]二条大麦、低ポリフェノール、プロアントシアニジンフリー、低褐変、精麦品質

[担当]栃木農試・栃木分場・二条指定・品質指定
[代表連絡先]電話:0282-27-2711
[区分]作物・冬作物、関東東海北陸農業・関東東海・水田作畑作
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
主食用の大麦は主に六条大麦が利用されているが、二条大麦もビール醸造および焼酎・味噌等の醸造用に利用される以外に、大粒大麦として食用に多く利用されている。しかし、砕粒が多い等の問題点がある。
 現在、実需者からの国産大麦に対する需要は大きく、高品質な大麦を安定生産することが望まれる一方、大麦は米や小麦に比べポリフェノール含量が高く、加熱により褐変することから炊飯後の変色の小さく搗精白度の高い品種の育成が強く望まれている。

[成果の内容・特徴]
「とちのいぶき」は1994年度に低ポリフェノール・大麦縞萎縮病抵抗性・良質・多収を育種目標に、「栃系253」を母、「(栃系216/ant28-494)F1」を父として人工交配を行い、派生系統育種法により選抜・固定を図ってきたものである。2008年度における世代はF14である。
 「スカイゴールデン」と比較して次のような特徴がある。
1. 出穂期および成熟期は同程度の早生種である。
2. 稈長はやや短く、穂長はやや長く、穂数は多い。
3. 赤かび病は同程度のやや強だが、うどんこ病には弱くやや弱である。オオムギ縞萎縮病はウイルス系統T型からX型に対して「スカイゴールデン」と同様に抵抗性である。
4. 収量性、千粒重、容積重および整粒歩合は同程度である。
5. 原麦粒の見かけの品質は同程度である。
6. 55%搗精時間はやや長いが、砕粒率は低く搗精白度は高い(図1)。
7. ポリフェノール含量は低く、加熱後の色相の変化が極めて小さい。(図3表1

[成果の活用面・留意点]
1. 温暖地の平坦地に適する。
2. 穂発芽し易いため適期播種に努めるとともに、適期収穫に努める。
3. 低ポリフェノールの特性を発揮させるため、他の品種が混ざらないよう十分注意する。
4. 低ポリフェノールの特性を生かした新規用途食品開発が可能である。

[具体的データ]
図1 精麦特性  図2 搗精白度及び外観品位
図3 加熱後色相の変化  表1 ポリフェノール含量

[その他]
研究課題名:極低ポリフェノール大麦を利用した機能性食材の新規用途開発
予算区分:高度化事業1656、指定試験
研究期間:1994〜1999年度、2001〜2008年度
研究担当者:山敏之、五月女敏範、渡辺浩久、大関美香、春山直人、沖山毅、長嶺敬(近中四農研)、加藤常夫、大野かおり、粂川晃伸、山口恵美子、関和孝博、渡邉修孝、谷口義則(東北農研)、山口昌宏、大塚勝、小田俊介(九沖農研)、常見讓史、加島典子、沖田聡、河田尚之(九沖農研)、石川直幸(近中四農研)、小玉雅晴、野沢清一、福田瑛、佐藤圭一、早乙女和彦、徳江紀子
発表論文等: 長嶺ら(2006)極低ポリフェノール大麦育成系統の品質および農業特性.栃木農試研究報告58:79-86渡辺ら(2008)極低ポリフェノール大麦「関東二条41号」の精麦品質および農業特性.日本作物学会紀事77(1):162-163

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