「山田錦」並みの酒造適性を有する水稲新品種「富の香」(とみのかおり)の育成


[要約]
「富の香」は、「山田錦」並の酒造適性を有する酒造好適米である。成熟期は「山田錦」より7日程度早い晩生品種であり、収量性は「山田錦」よりも優れる。

[キーワード]酒造好適米、晩生、酒造適性、富の香

[担当]富山農総技セ・農業研究所
[代表連絡先]電話:076-429-2114
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作
[分類]技術・普及

[背景・ねらい]
本県の酒造メーカーでは吟醸酒等の高級酒醸造用の原料米として主に「山田錦」が使用されている。しかし、「山田錦」を本県で栽培した場合、収穫時期が遅く十分に登熟しないため、品質の良い米を安定して生産することが困難であるため、そのほとんどは他県産となっている。そこで、富山県酒造組合からの「山田錦相当の酒造適性と富山県に適する栽培特性とを兼ね備えた新品種開発」との要望を受けて育成に取り組む。

[成果の内容・特徴]
1. 「富の香」は、1996年に「山田錦」を母、「富山酒45号(のちの「雄山錦」)」を父として人工交配して育成した品種である(表1)。
2. 出穂期は「山田錦」より5日程度早く、成熟期は7日程度早い(表1)。
3. 稈長は「山田錦」より11cm程度短く、穂数は「山田錦」と同等である(図1表1)。
4. 脱粒性は「山田錦」の中に対し難、耐倒伏性は「山田錦」より強く、穂発芽性は「山田錦」の易に対し中である(表1)。
5. 精玄米重は「山田錦」より多く、「五百万石」と同程度である。玄米千粒重は「雄山錦」よりやや軽く、「山田錦」より1g程度重い(表1)。
6. 心白発現率は「山田錦」より明らかに高く、また、吟醸酒での官能試験では「山田錦」と同等の評価である(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 高級酒向けの醸造用品種として、当面は県内酒造メーカーの需要動向に応じて普及を図る。
2. 耐倒伏性がやや弱いことから、また、精米蛋白質含量を高めないために過剰な施肥は避ける。
3. 県内産米を原料に用い、富山オリジナルの高級酒ブランドの開発が期待できる。

[具体的データ]
表1 「富の香」の特性概要  図1 「富の香」の稲株
表2 製成酒の成分分析および官能試験結果

[その他]
研究課題名:水稲新品種育成試験、水稲奨励品種決定試験
予算区分:県単
研究期間:1998〜2008年度
研究担当者: 蛯谷武志、宝田研、表野元保、小島洋一朗、木谷吉則、向野尚幸、山口琢也、土肥正幸、森川真紀子、尾崎秀宣、松島知昭
発表論文等:品種登録出願 第22032号

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