「エンレイ」縮緬じわ粒の種皮表面微細構造と種皮の透水性の違い


[要約]
縮緬じわ粒の側面種皮では、縮緬じわのない正常粒と比較して、種皮表面の微細凹凸構造が有意に少なく透水性が低いが、しわが形成される背側種皮は凹凸構造に差はなく透水性が高い。

[キーワード]ダイズ、縮緬じわ、種皮、表面粗さ、透水性

[担当]中央農研・土壌作物分析診断手法高度化研究チーム、田畑輪換研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8481
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作、北陸・生産環境、作物
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
エンレイに頻発する縮緬じわ粒は裂皮粒と同様に障害粒に分類され、格落ち要因となる。しわの発生には栽培環境や生理的要因が関わっていると言われているが、種皮構造上のいかなる違いが縮緬じわの発生に関与しているかは未解明である。一方で、収穫後の乾燥調製時におけるしわ発生メカニズムから、縮緬じわの発生にも、種皮の吸水・膨潤特性との関連が示唆される。すでに石豆(硬実)ダイズの吸水阻害機構の解析により、種皮表面微細凹凸構造と種皮透水性との関連は明らかにされている。本成果情報では、縮緬じわ粒の部位による種皮構造の違いを定量的に捉え、透水性と縮緬じわ形成との関連を示す。

[成果の内容・特徴]
1. 「エンレイ」の縮緬じわ粒の発生程度を分類し、レーザー走査型の微細構造計測顕微鏡を使い、種子の子葉の中央に相当する面(以下、側面中央と記載)と臍部に対向する面(以下、背側と記載)の種皮表面微細構造計測を行った(図1)。その結果、縮緬じわ粒と縮緬じわのない正常粒について、側面中央の微細凹凸の頻度に違いが認められるのに対して、背側の表面微細構造に、頻度の違いは認められない(図2)。
2. 種皮表面微細構造計測の結果から表面粗さ指標(RMS)を求めることにより、微細凹凸構造の多寡を定量的に表すことができるため、図1の通りに目視弁別した「エンレイ」を供試して、側面中央のRMSを比較すると、「多」は「正常」に比較して有意に低く、滑面化している(表1)。
3. 背側に縮緬じわが生じることから、「多」と「正常」では背側の種皮表面微細構造に違いがあるようにみえるが、RMSによる比較では有意な差は認められない(表2)。
4. 正常粒から側面中央の滑面化の程度が高い滑面粒と、その程度が小さい粗面粒を選び出し、短時間水につけて吸水させて、種皮の変形による吸水特性を比較すると、滑面化している粒は側面中央の変形が有意に発生しないことから、縮緬じわ粒の側面中央に特徴的な滑面化種皮は透水性が低い(表2)。
5. 以上から、縮緬じわ粒はしわが形成される背側では正常粒同様の種皮構造をしているが、子葉側面では滑面化して透水性が低い種皮構造をしている。

[成果の活用面・留意点]
1. 北陸地域に多発する縮緬じわ粒の発生を抑制するための基礎資料として活用する。
2. RMSは二乗平均平方根粗さを指し、測定面の平均線(面)と測定曲線(面)との偏差二乗平均の平方根で表される(JIS B0601-2001)。

[具体的データ]
図1 縮緬じわ粒の微細構造観察位置と発生程度の分類

表1 縮緬じわ粒の発生程度の異なる粒のRMS*比較
図2 正常粒と「多」縮緬じわ粒の種皮表面微細構造の違い
表2 種皮表面性状による吸水特性の違い

[その他]
研究課題名:ナノテクノロジーを利用した作物生理計測・制御技術の開発
課題ID:521-a
予算区分:基盤
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者:乙部和紀、大野智史

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