イネ高温登熟耐性選抜のための簡易加温検定装置


[要約]
イネの穂に透明な筒を被せる方式の簡易加温検定装置により、昼の穂温が約2℃上昇し、整粒割合が低下する。同一個体の、加温した穂と、対照の穂の玄米品質を比較することにより、高温登熟耐性の個体選抜ができ、分離系統の一次選抜が可能となる。

[キーワード]高温登熟、個体選抜、選抜法、簡易、穂温、イネ

[担当]中央農研・稲収量性研究北陸サブチーム
[代表連絡先]電話:025-526-3215
[区分]関東東海北陸農業・北陸・水田作畑作
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
近年、登熟時の高温により、白未熟粒の発生による玄米の外観品質の低下が問題になっている。登熟期の高温に対する耐性の遺伝的解析と耐性品種の選抜のためには、分離集団や遺伝的に固定されていない系統からの個体選抜が必要であるが、従来の高温処理と対照の圃場や施設に同じ品種を植えて耐性を調べる方法では、個体選抜はできない。そこで、1個体でも耐性の選抜が可能な簡易検定装置を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 出穂直後のイネの穂を、透明なフィルムの筒で覆い、更に加温効果を調節する計5種類の処理を行って(図1:処理方法も図に示す)穂温を上昇させると、収穫後の玄米の整粒割合は、処理により昼(8時〜18時)の平均穂温が上昇するにつれて、直線的に減少する(図2)。したがって、夜の穂温(ヒーター処理で高い)、穂の遮光(シルバー処理で光が弱い)、穂の換気(ファン処理で換気が多い)の影響はわずかで、昼の穂温が整粒割合に最も影響する。
2. 選抜には、ラバー処理が、簡便で穂温上昇効果が高く有用である。これを穂に装着することにより、昼の穂温が約2℃上昇する。夜の穂温はやや低下するが、0.1℃以下であり、影響は無視できる。また、より穏和な処理が必要な場合には、クリアー処理により、約1℃の上昇が得られる。
3. ラバー処理を、高温登熟耐性検定のための基準品種(新潟農総研)に適用したところ、多少の差はあるが、ほぼ高温耐性の順位に対応した結果が得られ、少ない個体数での選抜が可能である(図3)。
4. 透明筒の材料を比較したところ、透明OHPフィルムは、昼の平均穂温で、外気に比較して2.0℃の上昇であり、透明アクリルパイプの1.9℃、および農業用軟質塩ビシートの0.8℃に較べて、同等以上の温度上昇効果がある。OHPフィルムの利用により、軽量で操作性の良い装置が作成可能である。
5. 作成法は、A4サイズの透明PPC用OHPフィルム(3M, PP2500)の長辺に、両面テープ(ガラスアクリル用超強力)を接着し、園芸用グラスファイバー支柱を挟むように接着して筒を形成する。支柱接着部の内側に、幅2cmに切った厚さ5mmの黒色ゴムスポンジ(黒セルスポンジ)を両面テープで接着する。筒は簡単に支柱に沿って動くので、穂の高さに合わせて調節でき、軽量のため、強風でも倒れたり抜け落ちたりしにくい。

[成果の活用面・留意点]
1. 一つの個体から、節位、出穂日、穂の大きさが似た2穂を選ぶことが重要で、片方に加温処理を行って、他方を対照に比較する。
2. 筒の中で上に行くほど温度上昇効果が高まるため、装着時に穂の位置を揃えることが必要であり、また出穂後の穂首の伸長に伴って高さを調節する必要がある。また、黒色ゴムスポンジや支柱が、自身や他の処理個体に影をつくらないよう設置する。
3. 分離系統では後代の検定が必須である。

[具体的データ]
図1:穂温上昇のために試作した装置。
図2:5種類の加温調節処理による日中の平均穂温(熱電対による測定、設置後10日間の平均)と収穫後の玄米の整粒割合(静岡製機ES1000による測定)。  図3:ラバー処理による高温登熟耐性の基準品種の整粒割合。

[その他]
研究課題名:イネゲノム解析に基づく収量形成生理の解明と育種素材の開発
課題ID:221-c
予算区分:基盤、温暖化適応
研究期間:2007〜2008年度
研究担当者:寺尾富夫、千葉雅大、廣瀬竜郎

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